Aritalab:Lecture/Biochem/Proteomics

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プロテオミクスでは、細胞からのタンパク質抽出物をトリプシン等プロテアーゼで処理し、数十から数百万のペプチド断片に分解します。これを網羅的に計測するためには通常、超低流速LCを用います。

タンパク質のダイナミックレンジ

タンパク質の量比は組織によっても異なりますが、少なくとも血漿中では 1011 もの差があります。血漿の 8 %がタンパク質で、3000 種類以上が含まれています[1]。(血清は血液が凝固した後の水溶成分で、血液凝固因子が無く、血小板から出る成長因子を含む。)

1 ∼ 102 mg/mL
  • 血漿アルブミン (肝臓で合成され血漿タンパク質の6割 分子量 66 kDa 35-55 mg/mL)
  • γ-グロブリン (免疫グロブリン Ig のこと。IgGだけで免疫グロブリンの70-75% 分子量 146-970 kDa 8-18 mg/mL)
  • フィブリノーゲン (血液凝固第I因子。凝固したものがフィブリン。 2-6 mg/mL)
1 ∼ 103 ug/mL
  • 血漿トランスフェリン (鉄イオンを運搬 80 kDa 2-4 mg/mL)
  •  セルロプラスミン (銅イオンを運搬 67 kDa 2-5 mg/mL)
  • リポタンパク質 (キロミクロン, HDL, LDLなど。 目標値 LDL 1 mg/mL 未満、HDL 0.4 mg/mL 超)
  • 様々なグロブリン
1 ∼ 103 ng/mL
  • C反応性タンパク質 CRP (量が炎症反応の強さに比例 基準値 3 ng/mL)
  • 前立腺特異抗原 PSA (悪性腫瘍の診断に用いる 基準値 約 4 ng/mL)
  • 癌胎児性抗原 CEA (悪性腫瘍の診断に用いる 基準値 約 5 ng/mL)
1 ∼ 103 pg/mL
  • インターロイキンなどのサイトカイン[2]  (個人差が大きい 10-数百 pg/mL)

量の多い上位数種類のタンパク質を除いてもこの幅を克服することはできないため、いくつかの画分にわけて解析を進めます。精度を上げるには、ゲル電気泳動やイオン交換クロマトグラフィーを用いてタンパク質レベルの分離をおこなうことが重要です。

超低流速LC

ナノリットル程度の流速で分離することで単位時間あたり質量分析計に導入される試料の量を減らし、高濃度を達成できます。超低流速 LC-MS を用いると、数時間の測定で約 1000 個のタンパク質を同定できます。検出感度は一般的に f mol (10-15) レベル、質量計測の誤差は数十 ppm です。

Standard Hybrid Platforms in Proteomics
Type Characterstics Advantages Usage
QQQ
三連四重極
High speed 測定質量を絞ると更に高感度 SRM 用
IT
イオントラップ
High sensitivity MSnが可能 同定用
Q-TOF
四重極-飛行時間型
High accuracy バランスが良い 同定、定量用
Orbitrap (IT-FT)
High accuracy & sensitivity 検出器を二つ持つ 同定、定量用

タンパク質の測定

SRM, MRM

SRM は Selected Reaction Monitoring, MRM は Multiple Reaction Monitoring の略で、ともに同じ概念です。三連四重極質量分析計において測定する質量範囲を狭め感度を高める手法を指します。

  1. 三つの四重極の一段目で、特定質量のペプチドだけを選択
  2. 二段目で、アルゴンガスと衝突させ、MS2フラグメントを生成
  3. 三段目で特定の断片化ペプチドだけを選択

これには、あらかじめ測定する質量値を入力しておきます。複数のターゲットに対して処理をおこなう場合が MRM です。

SRMを用いると安定同位体標識をしたペプチドと非標識のペプチドを比較することで f mol ∼ p mol レベルの定量が可能です。

測定ペプチドの選択
  • 実測データがある場合

ショットガン方式で高く観測されるシグナルはSRMでも有用です。

  • 微量タンパク質で実測データが無い場合

対象タンパク質に特異的で、翻訳後修飾を受けず、極性などが極端に偏らない部分配列を選びます。その際、以下の条件も考慮します。

· リジン、アルギニンの連続部分を含まない (トリプシンで消化されにくいから)
· メチオニンを含まない (酸化修飾を受けやすいから)
· プロリン、グリシンを含む (切断されやすいから)

リン酸化タンパク質の測定

UniProtKBデータベースによると、2 万タンパク質のうち 6 千タンパク質がリン酸化されています。これらのリン酸化タンパク質は、いくつかの手法で濃縮することができます。

  • 3 価の金属イオン (Fe3+, Ga3+ など) を用いた固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー (Immobilized Metal ion Affinity Chromatography: IMAC)
ただし金属イオンはペプチド表面にあるヒスチジンも捕らえるため、目標タンパク質の網羅性は下がります。
  • 酸化金属 (TiO2, ZrO2, Al2O3) などを用いた酸化金属クロマトグラフィー (MOC)
さらに、カラムと溶媒の両方にヒドロキシ酸[3]を加えておくと、MOCの結合強度が

酸性タンパク質 < ヒドロキシ酸 < リン酸基

となるためにリン酸化タンパク質を効率よく濃縮できます。これを Hydroxy-Acid modified MOC = HAMMOC 法といいます。今は京都大学薬学部に所属する石濱さんが開発しました。

細胞表面タンパク質の測定

いずれの方法でも 200 から 300 の表面タンパク質を捕捉し、量的変動を解析することが可能です。 細胞表面はウィルスや抗体が反応を起こす場になるため、発現量が一定以上あって外部刺激に応答する標的分子を探すことは抗体医薬の開発において重要です。とくにガンに対しては、抗体依存性細胞障害 (antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity: ADCC) を誘導してナチュラルキラー細胞にガン細胞を殺させる手法が注目されています。たとえば HER2 (Human Epidermal growth factor Receptor 2) (別名 ERBB2) タンパク質は上皮増殖因子受容体ファミリーに属し、30% の転移性乳癌で過剰発現しています。そうしたレセプターが特定されれば、トラスツズマブ (Trastuzumab 商標名はハーセプチン) のような特異的抗体を設計してHER2 をブロックし、ADCCを促進することでガン細胞を攻撃できます。トラスツズマブの場合は、p27遺伝子を活性化させ、細胞の増殖を抑えます。

ビオチンラベル法
  1. 培養細胞にビオチンを加えてラベルしたあと、超遠心機で膜画分をとってくる
  2. トリプシンで処理した後にアビジンカラムで生成
  3. LC-MS解析すると、108 程度の細胞から、200-300 のタンパク質を同定できる

ビオチン試薬はペプチドのリジン側鎖(アミン)と反応してアミド結合を作ります。これを利用して細胞表面のタンパク質だけを濃縮できます。 この方法ではケラチンなど細胞表面にあるか疑わしいペプチドも同定されます。

糖タンパク質捕捉法

血漿中のタンパク質は、アルブミンを除いて糖鎖で修飾されています。膜タンパク質も糖鎖修飾されています。したがって糖鎖の解析は大変重要です。

細胞に酸化剤を入れて細胞表面の糖を開環させてしまいます。開環で生じるアルデヒドにヒドラジド (hydrazide) が共有結合できるので、これにビオチン化して濃縮する手法です。シアトルにあるシステムバイオロジー研究所のR Aebersold らが開発しました[4]

  1. 細胞を過ヨウ素酸で酸化すると cis-ジオールの形を持つ糖部分が開環してアルデヒドになる
  2. ヒドラジド樹脂とアルデヒド部分を反応させ、固相に固定
  3. ヒドラジド樹脂を洗浄
  4. PNGase F などN-グリコシダーゼで処理してN型糖鎖のみを選択的に切断、回収
  5. LC-MS で測定

プロトアレイ

Invitrogen 社が商品化する ProtoArray は昆虫細胞で発現させた 9483 タンパク質 (Ver.5.0) を構造や機能を保持したままニトロセルロースのスライド上にスポットしている。 PPI解析をするには、以下のステップを経ます。

  1. 目的遺伝子を分泌型発現ベクター pSecTag/FRT/V5 にクローニングし、 HEK293 細胞に導入。
  2. 細胞を無血清培地で培養し、上清を回収して濃縮。 プローブタンパク質は 50 ug/mL に調整。
  3. プローブ 120 ul をアレイに滴下し、90 分反応。さらに、標識抗体を添加し、30 分反応。その後、洗浄して乾燥。
  4. 蛍光シグナルをスキャナーで解析。

アレイは、全てのスプライシングバリアントを考慮できない、細胞内局在を考慮できない、生体内の環境とは一致しない、などの不具合はあるものの、免疫沈降法やY2Hよりは擬陽性は少ないと思われる。結合が見出されたらタンパク質インタラクトームのデータベースと比べてみることは重要。

タンパク質の定量

SILAC 相対定量法

SILAC (Stable Isotope Labeling using Amino acids in Cell culture) は定量精度が高く実用的です。

  1. 標識したい細胞培地に 13C ラベルしたアルギニン、リジンを入れる
  2. 抽出したタンパク質を、通常の培地で培養した細胞由来のタンパク質と混ぜる
  3. トリプシンで処理し、LC-MS で測定

ただし、アルギニンが多いと生体内でプロリンに変換されるため、濃度を最適化することが重要。

ICAT 化学標識法

ICAT (Isotope-Coded Affinity Tag) は細胞を培養する必要がないため、動物組織や臨床検体にも使えます。

  1. 別々の試料からタンパク質(ペプチド)をそれぞれ抽出する
  2. 片方には同位体標識をした化合物、もう片方には標識していない化合物を結合させる
  3. 混合してトリプシン処理したものを、LC-MS で測定

iTRAQ 法

ICATの進化系といえます。レポーター、バランサー、アミノ酸反応基を含み、質量の総計が同じになるように設計された iTRAQ試薬 4 種を使って標識します。(4つ以上でもOKです。)

  • <L+3>− < R >− peptide
  • <L+2>− <R+1>− peptide
  • <L+1>− <R+2>− peptide
  • < L >− <R+3>− peptide

4つのサンプルを標識後に混ぜて比較すると、MS解析では全てのラベルしたペプチドが単一のピークとして検出されますが、MS/MS解析をすると<A>から<A+3>までのレポーターイオンが観測され、定量データが得られます。ただし酵素消化後や濃縮をした後に標識するのが一般的なので、精度は下がらざるを得ません。

文献、参考
  1. Omenn GS et al 2005 "Overview of the HUPO Plasma Proteome Project: Results from the pilot phase with 35 collaborating laboratories and multiple analytical groups, generating a core dataset of 3020 proteins and a publicly-available database" Proteomics 5:3226-3245
  2. 免疫細胞が分泌する情報伝達用タンパク質を総称してサイトカインと呼ぶ。
  3. TiO2には乳酸、ZrO2には3-ヒドロキシプロピオン酸を用います。
  4. Zhang H, Li XJ, Martin DB, Aebersold R (2003) "Identification and quantification of N-linked glycoproteins using hydrazide chemistry, stable isotope labeling and mass spectrometry" Nat Biotechnol 21(6):660-6
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