Doc:Radiation/Food

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m (500 Bq/kg の玄米)
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抹茶は和菓子にも使いますが、もともと 800 Bq / kg 以上あります。品種や産地、栽培法による違いもあると思われます。(ただし、カリウムの実効線量係数はセシウムの半分、つまり同じベクレル数でもシーベルト数はおおよそ半分です。)
 
抹茶は和菓子にも使いますが、もともと 800 Bq / kg 以上あります。品種や産地、栽培法による違いもあると思われます。(ただし、カリウムの実効線量係数はセシウムの半分、つまり同じベクレル数でもシーベルト数はおおよそ半分です。)
例えば自主的に放射線検査をおこなう企業がガイガーカウンターで計測した場合、セシウム由来のベクレル数とカリウム由来のベクレル数を見分けることはできません。また、通常のベクレル数に 500 Bq 上乗せされたら出荷停止という基準なのであれば、通常値は何ベクレルとするのか、そうした基準もありません。(県などの検査機関が計測する場合はセシウムだけを抽出して測りますが、手間がかかります。)
 
  
 
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Revision as of 13:36, 27 October 2011

もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents

食品における放射線

食品における放射線量は、(財)食品流通構造改善促進機構がYasaikensaというわかりやすいページを作成してくれています[1]。 ここには厚生労働省が発表する野菜等のベクレル数が、セシウムやヨウ素毎に値が出ています。

ヨウ素やセシウムの値を計測・算出するのは大変な作業です。現在販売される食品用の測定器は300-400万円、1品目の計測に10分以上かけて 数十 Bq 程度が下限値です(測定器の比較は、みかげさんのページがよくまとまっています)。ですからスーパーマーケット等が販売品の放射線計測値としてベクレル数を 1 桁まで表示したりするのは、計測誤差を考慮しない大変いい加減な方法と言わざるを得ません。(毎日入れ替わる品々を1品目 10 分以上かけて計測できるはずがありません。)放射線の計測は、企業等が簡単に導入・実施できることではないのです。

セシウムがどうしても気になる人へ
  • 暫定基準値に等しい 500 Bq/kg のコメが福島県二本松産の玄米で見つかりましたが、精白米のセシウム量は玄米の 1/3 に減ります
  • 500 Bq/kg の玄米 4 合 (600 g) を毎日1年間食べ続けると
500 (Bq) × 1.3 × 10-5 × 0.6 (kg) × 365 (日) = 1.42 mSv
の被曝に相当します。1.42 mSv という値は、日本平均とイタリア(ローマ)の自然放射線(シーベルト数)の差ぐらいに相当します。
  • 福島県ではこれまで 800 件以上の米検査をおこなっていますが、暫定基準値を超えたケースはありません。

500 Bq/kg の玄米

今回作付けを許された田畑は 5000 Bq/kg 以下の土壌であるため、玄米への移行係数が 0.1 以上であることに相当します。植物の種子にはセシウムが移行しにくいことを考えても驚くべき高値であり(移行係数の項を参照)、今回の栽培法を詳しく分析すべきです。作付けした農家は「手間ひまと肥料などの経費は無駄になった」(毎日新聞9月25日報道)とコメントしていますが、科学的には無駄どころか大変貴重な事例です。肥料のやり方や内容を分析すれば、汚染地を植物によって除染(ファイトレメディエーション)する大きな手がかりが得られるはずで、むしろ大きな発見です。稲わらのセシウム蓄積量も測定したほうが良いでしょう。

福島ではこれまで数多くのお米が検査されていますが、殆どは検出限界以下、あっても数十ベクレル程度です。(わかりやすいページ Yasaikensa)

消費者心理としては危険性のある米が微量でも混入するのは嫌かもしれませんが、リスク低減の観点からは米を混ぜて流通させた方が良いと思います。なぜなら全ての米を逐一検査しきれませんし、そうしなくても確実に暫定基準値を大幅に下回る米を提供できるからです。

微量でも危険な要素が入るのは嫌だという方は、輸入穀物・ナッツ類におけるカビ毒、アフラトキシンの事例が参考になると思います。(鹿児島大学獣医公衆衛生学 岡本嘉六教授のページにある チャールズ博士のスライド)食品のリスクはセシウムだけではありません。

お茶

セシウムがどうしても気になる人へ
  • お茶や海藻にはもともと天然のカリウムが豊富に含まれています。植物はカリウムとセシウムを間違えて組織中に取り込むので、カリウムが多い食品にはセシウムが取り込まれやすいです。
  • カリウムには天然の放射性同位体があり、その放射線は放射性セシウムのものとほぼ変わりません(β 線を出し、エネルギーも高い)。(詳しくは自然放射線の項参照)
  • 腎臓透析をおこなう人向けの低カリウム食はセシウムを防ぐ手段になりえます。ただし、偏食やカリウムの欠乏は放射線被害以上に健康を損なう可能性があることに注意しましょう。(放射線一般の食品汚染の項を参照)

カリウムによる自然放射線

乾燥茶葉はもともとカリウムを豊富に含みます。カリウム量は文部科学省の 五訂増補日本食品標準成分表 によりました。

食品  カリウム量
(g / kg)
カリウムの放射線
(Bq / kg)
セシウムによる放射線との比較
抹茶(乾燥) 27 821 どのお茶も一律にセシウム量が 500 Bq/kg を超えると出荷停止になるのだと思いますが、玉露や抹茶など、お茶は軒並み、カリウムによるベクレル数がすでに 500 Bq /kg を超えています。抹茶や玉露はかぶせ茶といい、日除けをして栽培した茶葉のため、カリウム量が煎茶よりやや多いと思われます。

浸出茶のカリウム量は 300 mg /l 程度です。 1.5 リットル飲んで 0.5 g のカリウムを含み、15.2 ベクレルです。

日本茶(玉露) 28 851
日本茶(煎茶) 22 669
インスタントコーヒー(粉) 36 1094 1杯につき粉 3 g 使うとすると、カリウム108 mg を含み 3.28 ベクレルになります。

抹茶は和菓子にも使いますが、もともと 800 Bq / kg 以上あります。品種や産地、栽培法による違いもあると思われます。(ただし、カリウムの実効線量係数はセシウムの半分、つまり同じベクレル数でもシーベルト数はおおよそ半分です。)

セシウムが 800 Bq / kg 混入した茶葉を 20 g 粉にして食べる際のセシウムによる実効線量 (シーベルト数) は、だいたいカリウム 1 g ぶん (例えばトマトジュース 400 ml、焼き芋 200 g、アボカド 1 個分) に相当します。

  • 茶葉 20g : 800 × (20 / 1000) × 1.3 × 10-5 = 20.8 × 10-5 mSv
  • カリウム 1g : 30.4 × 0.62 × 10-5 = 18.84 × 10-5 mSv

同じく、荒茶で放射性セシウムが 4000 Bq / kg あったとしても、 4 g を粉にして全部食べる際の実効線量はカリウム 1 g ぶんと同じです。お茶をミルで挽いて粉茶にする人もいるとおもいますが、そうした粉によるお茶 1 杯の目安量は 1 g になっています。線量が 4000 Bq / kg あるお茶を 4 杯分飲んで被曝するシーベルト数は焼き芋 1 本と同じです。

飲むお茶(浸出液)のカリウム量は、上記の五訂増補日本食品標準成分表によると、玉露で 0.34 g/100 ml, 煎茶で 0.027 g/100 ml になります。浸出法や測定方法は成分表に載っているのでご覧ください。

食肉

セシウムがどうしても気になる人へ
  • 牛肉=セシウム汚染というイメージが広まりましたが、稲わらを食べさせるのは肉牛です。(しかも赤身ではなく「霜降り」を作るために食べさせます。)
  • 鶏、豚、乳牛には稲わらを食べさせません。特に鳥や豚は反芻動物ではないので、牧草由来のセシウムを取り込む可能性は非常に低いです。
  • 肉を十分量の食塩水に浸せばセシウム、カリウム、ナトリウムなどは薄まりますが、それよりは多種の食品を摂ることで薄めるほうが有効でしょう。

食肉の移行係数

食肉に関する移行係数・半減期は、日本草地畜産種子協会による[1]に記されています。食肉の移行係数は、 day/kg という単位で測られ、以下の式を満たす係数として産出されます。(一定濃度の飼料を長期間食べ続けた際の平衡状態における値として計算します。)

食肉中の濃度 (Bq/kg) = 飼料中の濃度 (Bq/kg) × 飼料の摂取量 (kg/day) × 移行係数 (day/kg)

植物の移行係数が

植物体のベクレル数 / 土壌のベクレル数

という (単位を持たない) 比であるのに対し、食肉の移行係数は一日に摂取するベクレル数のうち体内に保持する割合を示す値になっています。

食肉の生物学的半減期[2]
種類 セシウム移行係数 (day/kg) セシウム生物学的半減期
牛乳 0.0023-0.0053 1.5-15[3]
牛肉 (乳牛) 0.01 20-30
牛肉 (牝牛) 0.035-0.04 50-60
牛肉 (牡牛) 0.03-0.04 30-40
子牛 0.35-0.40 25-30
豚肉 0.35-0.45 30-40
羊肉 0.30-0.35 35-40
鶏肉 (ムネ) 1.3 18
鶏肉 (モモ) 1.2 11
鶏卵 0.1-0.2 2.5-5
家畜 肉 1 kg あたり飼料 飼料効率
肉牛 10 − 11[4] 0.1
3(雑種交配) − 4 (黒豚等)[5] 0.25-0.33
2.2-2.4 [6] 0.41-0.45
例.

2000 Bq/kg の飼料を一日 10 kg 食べ続ける肉牛のセシウム量

2000 × 10 × 0.04 = 800 Bq/kg

実際には、セシウムに汚染される飼料は一部分になるので、飼料のセシウム量 (Bq/kg) は平均値になる点に注意してください。

表に表れている 牛 < 羊 < 豚 < 鶏 という傾向は飼料効率(肉を 1 kg 増やすのに必要な飼料量)と似ています。 飼料を肉にする効率がよい動物のほうが、(カリウムと間違えて取り込む)セ シウムの取り込み率も高いということです。ここから、同じ家畜でも成長が旺盛な段階のほうがセシウム取り込み率が高いことが予測されます。また、鳥は半減期が短い代わりに取り込み率が高くなります。(ただし、鳥や豚には主に配合飼料を食べさせます。)

基準値が気になる人は塩水に漬ける、ハムにする

セシウムはカリウムと似た挙動を示します。肉はしゃぶしゃぶにするだけでカリウムが半減しますが(カリウム除去食のデータを参照)、セシウムも同じように薄まります。塩水に肉を漬けておくだけで塩水中のナトリウムイオンと交換され、90%以上を除去可能というデータも報告されています[7][8]。ですから基準値を数倍超える程度の牛肉であれば、加工品として十分利用できる(廃棄する必要はない)はずです。

一般家庭では、さまざまな食品を食べることでセシウム量を薄めることが重要でしょう。実は、健康被害のリスクという観点からは、生肉を食べて食中毒を起こすほうが危険です。東京都内の食中毒発生トップ4は、1. ノロウイルス 2. カンピロバクター 3. ウェルシュ菌 4. サルモネラで(東京都福祉保健局による過去10年の統計。年による変動は大きいです)、2~4は動物の常在菌です。もともと日本に生食できる鶏・豚・牛肉というものは存在しません。ドイツや日本で食中毒による死亡が相次いでいますが、放射線の影響は、あるとしても発がん率が数%上がるかどうかというレベルです。

食品汚染を防ぐには

このセクションは主に以下の論文の内容を紹介します。

  • Fesenko et al. "An extended critical review of twenty years of countermeasures used in agriculture after the Chernobyl accident" Sci Total Environ 383(1):1-24 PMID 17573097

食品汚染への対策

チェルノブイリ事故では、汚染された牛乳を摂取した子供が甲状腺がんを患うという健康被害を出しました。その反省および対策として、以下の対策がとられています。これらは日本の土壌汚染についてもあてはまるでしょう。長期的な視点で一番問題になるのは、農作物と食肉のセシウム汚染です。

半減期の短い放射性ヨウ素汚染の広がりを防ぐために
  • 牛乳の放射線検査を徹底すること
  • (放射線検査に不合格の)牛乳は、チーズやバターに加工する
  • 家畜は放牧せずに屋内で汚染されていない飼料を与える
半減期の長い放射性セシウム汚染の広がりを防ぐために
  • 農産物、家畜、肉、牛乳は放射線検査を徹底する (これが一番重要)
  • 牧草でなくとうもろこし等を飼料に与える
  • 汚染された家畜の糞を肥料として利用しない
  • きのこは摂取しない(きのこは重金属類を蓄積しやすい)
  • 東北地域で「地産地消」しない

基準値を超えた牛乳や肉も利用できる

加工品にすることで、含まれる放射性物質を減らすことが可能です。とりわけ牛乳や精肉で基準値を超えるような場合は、加工品とすることで安全に消費することが可能です。牛乳はバターにする、果物は(100%でない)ジュースにする、野菜や肉は煮込んで使うことにより、放射性物質の量を軽減できます。基準値は長期間食べ続けても大丈夫な量をもとに設定されているため、基準値を下回れば健康に被害はありません (基準値については放射線のページをご覧ください)。

食品加工による放射性物質の軽減比(加工後 / 加工前) [9][10]
対策 137Cs 90Sr
小麦を製粉する 0.3-0.9 0.2-0.4
小麦をふすまにする 3 3
野菜、果物等を洗う 0.8-0.9 0.8-1
野菜、果物等を煮る 0.5-0.8 0.8
野菜、果物等を漬ける 0.2-0.9 -
野菜、果物等をジュースにする 0.4-1 0.01-0.5
ビートを砂糖にする 0.01-0.08 -
ジャガイモを澱粉にする 0.12-0.17 -
きのこを洗う 0.4 -
きのこを茹でる 0.1-0.3 -
きのこを水にひたす 0.1 -
きのこを漬ける 0.1-0.2 -
牛乳をバターにする 0.2-0.3 0.1-0.5
牛乳をクリームにする(脂肪10.3%) 0.7-0.9 0.7-0.9
牛乳をコンデンスミルクにする 2.7 2.7
牛乳を粉ミルクにする 8 8
牛乳をチーズにする(レンネット) 0.5-0.6 6-8
牛乳をカゼイン(カテージチーズ)にする 0.03 4
肉を煮込む 0.1-0.5 -
肉を塩水にひたす 0.02-0.7 -
ナタネから油をとる 0.004 0.002

上の表は、文献からそのまま転記していますが、おかしく感じられる点もあります(水に浸すという表記は塩水と思われます)。しかし、加工品にすることで基準値を下回るのであれば、むやみに廃棄するのではなく加工して利用する道を模索すべきでしょう。

なぜならセシウム被害はここ数ヶ月、数年の問題ではなく、これから何十年も付き合わねばならない問題だからです。いつまでも廃棄して済まされるものではありませんし、廃棄する習慣をつけないほうが将来のためだと思います。加工により放射線量が下がる程度については、高度情報科学技術研究機構によるATOMICA百科事典上の記述も参考にしてください。

参考文献
  1. もともとは産業技術総合研究所の川尻耕太郎さんがまとめていたサイトを引き継いでいるそうです。先浜直子様に教えていただきました。ありがとうございます。
  2. Voigt G, Prohl G, muller H, Bauer T, Lindner JP, Probstmeier G, Rohrmoser G (1989) "Determination of the transfer of cesium and iodine from feed into domestic animals" The Science of the Total Environment 85:329-338
  3. 牛乳は半減期1.5日のカーブ80%と、半減期15日のカーブ20%の和が良く一致するそうです
  4. コープ山口 牛肉の基礎知識
  5. 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室によるミートジャーナル記事 「肉の常識
  6. 養鶏学コーナー
  7. Wahl R, Kallee E (1986) "Decontamination puts meat in a pickle" Nature 323(6085):208 PMID 3762671 この報告は論文ではなく、通信欄の短い記事です
  8. Franić Z, Sencar J, Bauman A (1993) "Speeding up meat decontamination by freezing" Health Phys. 65(2):216-7 PMID 8330971 凍らせて細胞を破砕しておけば数時間塩水につけるだけでセシウムを除去できるとする報告
  9. Brown J, Ivanov Y, Perepelaytnikova LV, Prister B, Fesenko SV, Sanzharova NI, et al. (1995) Comparison of data from the Ukraine, Russia and Belarus on the effectiveness of agricultural countermeasures. NRPB-M597. Didcot: NRPB
  10. Bogdevitch I, Bogdevitch Yu, Rigney C, Chupov A. (2002) Edible oil production from rapeseed grown on contaminated lands. Innovations forum Westschopfugsketten in der Naturstoffverarbeitung. 10 und 11 Dezember 2001 Gardelegen; pp148-56
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