Doc:Radiation/Food

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m (基準値を超えた肉でもハムにすれば大丈夫)
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セシウムはカリウムと似た挙動を示します。肉はしゃぶしゃぶにするだけでカリウムが半減しますが([[Doc:Radiation|カリウム除去食のデータ]]を参照)、同様にセシウムも薄まります。塩水に肉を漬けておくだけで塩水中のナトリウムイオンと交換され、90%以上を除去可能というデータも報告されています<ref>Wahl R, Kallee E (1986) "Decontamination puts meat in a pickle" Nature 323(6085):208 PMID 3762671 この報告は論文ではなく、通信欄の短い記事です</ref><ref>Franić Z, Sencar J, Bauman A (1993) "Speeding up meat decontamination by freezing" Health Phys. 65(2):216-7 PMID 8330971 凍らせて細胞を破砕しておけば数時間塩水につけるだけでセシウムを除去できるとする報告</ref>。ですから基準値を数倍超える程度の牛肉であれば、加工品として十分利用できる(廃棄する必要はない)はずです([[Doc:Radiation/Contamination|土壌汚染対策]]の項も参考にしてください)。
 
セシウムはカリウムと似た挙動を示します。肉はしゃぶしゃぶにするだけでカリウムが半減しますが([[Doc:Radiation|カリウム除去食のデータ]]を参照)、同様にセシウムも薄まります。塩水に肉を漬けておくだけで塩水中のナトリウムイオンと交換され、90%以上を除去可能というデータも報告されています<ref>Wahl R, Kallee E (1986) "Decontamination puts meat in a pickle" Nature 323(6085):208 PMID 3762671 この報告は論文ではなく、通信欄の短い記事です</ref><ref>Franić Z, Sencar J, Bauman A (1993) "Speeding up meat decontamination by freezing" Health Phys. 65(2):216-7 PMID 8330971 凍らせて細胞を破砕しておけば数時間塩水につけるだけでセシウムを除去できるとする報告</ref>。ですから基準値を数倍超える程度の牛肉であれば、加工品として十分利用できる(廃棄する必要はない)はずです([[Doc:Radiation/Contamination|土壌汚染対策]]の項も参考にしてください)。
  
ただし、一般家庭で肉を塩水に漬ける等はしなくてよいと思います。さまざまな食品を食べてセシウム量を薄めるだけで基準値以下まで問題なく下げられます。健康被害のリスクという観点からは、生肉を食べて食中毒を起こすほうがずっと危険です。東京都内の食中毒発生トップ4は①ノロウイルス ②カンピロバクター ③腸管出血性大腸菌 ④サルモネラで(東京都福祉保健局による[http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/tyuudoku/h17_byouin.html 過去10年の統計])、②~④は動物の常在菌です。もともと日本に生食できる鶏・豚・牛肉というものは存在しません。ドイツや日本で食中毒による死亡が相次いでいますが、放射線の影響は、あるとしても発がん率が数%上がるかどうかというレベルなのです。
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ただし、一般家庭で肉を塩水に漬ける等はしなくてよいと思います。さまざまな食品を食べてセシウム量を薄めるだけで基準値以下まで問題なく下げられます。健康被害のリスクという観点からは、生肉を食べて食中毒を起こすほうがずっと危険です。東京都内の食中毒発生トップ4は、1. ノロウイルス 2. カンピロバクター 3. ウェルシュ菌 4. サルモネラで(東京都福祉保健局による[http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/tyuudoku/h17_byouin.html 過去10年の統計]。年による変動は大きいです)、2~4は動物の常在菌です。もともと日本に生食できる鶏・豚・牛肉というものは存在しません。ドイツや日本で食中毒による死亡が相次いでいますが、放射線の影響は、あるとしても発がん率が数%上がるかどうかというレベルなのです。
  
 
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Revision as of 10:59, 26 July 2011

もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents

食品における放射線

食品における放射線量は、(財)食品流通構造改善促進機構がYasaikensaというわかりやすいページを作成してくれています[1]。 ここには厚生労働省が発表する野菜等のベクレル数が、セシウムやヨウ素毎に値が出ています。

こうした値を大規模・継続的に計測・算出するのは大変な作業で、企業等が簡単に導入・実施できることではないと思います。

お茶

セシウムがどうしても気になる人へ
  • お茶や海藻にはもともと天然のカリウムが豊富に含まれています。植物はカリウムとセシウムを間違えて組織中に取り込むので、カリウムが多い食品にはセシウムが取り込まれやすいです。
  • カリウムには天然の放射性同位体があり、その放射線は放射性セシウムのものとほぼ変わりません(β 線を出し、エネルギーも高い)。(詳しくは自然放射線の項参照)
  • 腎臓透析をおこなう人向けの低カリウム食は放射線を防ぐ手段になりえます。ただし、偏食やカリウムの欠乏は放射線被害よりも健康を損なう可能性があることに注意。(放射線一般の食品汚染の項を参照)
解説

乾燥茶葉はもともとカリウムを豊富に含みます。カリウム量は文部科学省の 五訂増補日本食品標準成分表 によりました。

食品  カリウム量
(g / kg)
カリウムの放射線
(Bq / kg)
セシウムによる放射線との比較
抹茶(乾燥) 27 821 どのお茶も一律にセシウム量が 500 Bq/kg を超えると出荷停止になるのだと思いますが、玉露や抹茶など、お茶は軒並み、カリウムによるベクレル数がすでに 500 Bq /kg を超えています。抹茶や玉露はかぶせ茶といい、日除けをして栽培した茶葉のため、カリウム量が煎茶よりやや多いと思われます。

浸出茶のカリウム量は 300 mg /l 程度です。 1.5 リットル飲んで 0.5 g のカリウムを含み、15.2 ベクレルです。

日本茶(玉露) 28 851
日本茶(煎茶) 22 669
インスタントコーヒー(粉) 36 1094 1杯につき粉 3 g 使うとすると、カリウム108 mg を含み 3.28 ベクレルになります。

抹茶は和菓子にも使いますが、もともと 800 Bq / kg 以上あります。品種や産地、栽培法による違いもあると思われます。(ただし、カリウムの実効線量係数はセシウムの半分、つまり同じベクレル数でもシーベルト数はおおよそ半分です。) 例えば自主的に放射線検査をおこなう企業がガイガーカウンターで計測した場合、セシウム由来のベクレル数とカリウム由来のベクレル数を見分けることはできません。また、通常のベクレル数に 500 Bq 上乗せされたら出荷停止という基準なのであれば、通常値は何ベクレルとするのか、そうした基準もありません。(県などの検査機関が計測する場合はセシウムだけを抽出して測りますが、手間がかかります。)

セシウムが 800 Bq / kg 混入した茶葉を 20 g 粉にして食べる際のセシウムによる実効線量 (シーベルト数) は、だいたいカリウム 1 g ぶん (例えばトマトジュース 400 ml、焼き芋 200 g、アボカド 1 個分) に相当します。

  • 茶葉 20g : 800 × (20 / 1000) × 1.3 × 10-5 = 20.8 × 10-5 mSv
  • カリウム 1g : 30.4 × 0.62 × 10-5 = 18.84 × 10-5 mSv

同じく、荒茶で放射性セシウムが 4000 Bq / kg あったとしても、 4 g を粉にして全部食べる際の実効線量はカリウム 1 g ぶんと同じです。お茶をミルで挽いて粉茶にする人もいるとおもいますが、そうした粉によるお茶 1 杯の目安量は 1 g になっています。線量が 4000 Bq / kg あるお茶を 4 杯分飲んで被曝するシーベルト数は焼き芋 1 本と同じです。

飲むお茶(浸出液)のカリウム量は、上記の五訂増補日本食品標準成分表によると、玉露で 0.34 g/100 ml, 煎茶で 0.027 g/100 ml になります。浸出法や測定方法は成分表に載っているのでご覧ください。

食肉

セシウムがどうしても気になる人へ
  • 牛肉=セシウム汚染というイメージが広まりましたが、稲わらを食べさせるのは肉牛です。(しかも赤身ではなく「霜降り」を作るために食べさせます。)
  • 鶏肉、豚肉、乳牛には稲わらを食べさせません。
  • 肉を十分量の食塩水に浸せばセシウム、カリウム、ナトリウムなどは薄まりますが、それよりは多種の食品を摂ることで薄めるほうが有効です。
  • セシウムよりも生肉(ユッケや飲食店の刺身含む)のほうがはるかに危険。

食肉の移行係数

食肉に関する移行係数・半減期は、日本草地畜産種子協会による[1]に記されています。食肉の移行係数は、 day/kg という単位で測られ、以下の式を満たす係数として産出されます。(一定濃度の飼料を長期間食べ続けた際の平衡状態における値として計算します。)

食肉中の濃度 (Bq/kg) = 飼料中の濃度 (Bq/kg) × 飼料の摂取量 (kg/day) × 移行係数 (day/kg)

植物の移行係数が

植物体のベクレル数 / 土壌のベクレル数

という (単位を持たない) 比であるのに対し、食肉の移行係数は一日に摂取するベクレル数のうち体内に保持する割合を示す値になっています。

食肉の生物学的半減期[2]
種類 セシウム移行係数 (day/kg) セシウム生物学的半減期
牛乳 0.0023-0.0053 1.5-15[3]
牛肉 (乳牛) 0.01 20-30
牛肉 (heifer) 0.035-0.04 50-60
牛肉 (牡牛) 0.03-0.04 30-40
子牛 0.35-0.40 25-30
豚肉 0.35-0.45 30-40
羊肉 0.30-0.35 35-40
鶏肉 (ムネ) 1.3 18
鶏肉 (モモ) 1.2 11
鶏卵 0.1-0.2 2.5-5
家畜 肉 1 kg あたり飼料 飼料効率
肉牛 10 − 11[4] 0.1
3(雑種交配) − 4 (黒豚等)[5] 0.25-0.33
2.2-2.4 [6] 0.41-0.45
例.

2000 Bq/kg の飼料を一日 10 kg 食べ続ける肉牛のセシウム量

2000 × 10 × 0.04 = 800 Bq/kg

実際には、セシウムに汚染される飼料は一部分になるので、飼料のセシウム量 (Bq/kg) は平均値になる点に注意してください。

表に表れている 牛 < 羊 < 豚 < 鶏 という傾向は飼料効率(肉を 1 kg 増やすのに必要な飼料量)と似ています。 飼料を肉にする効率がよい動物のほうが、(カリウムと間違えて取り込む)セ シウムの取り込み率も高いということです。ここから、同じ家畜でも成長が旺盛な段階のほうがセシウム取り込み率が高いことが予測されます。また、鳥は半減期が短い代わりに取り込み率が高くなります。(ただし、鳥や豚には主に配合飼料を食べさせます。)

基準値を超えた肉でもハムにすれば大丈夫

セシウムはカリウムと似た挙動を示します。肉はしゃぶしゃぶにするだけでカリウムが半減しますが(カリウム除去食のデータを参照)、同様にセシウムも薄まります。塩水に肉を漬けておくだけで塩水中のナトリウムイオンと交換され、90%以上を除去可能というデータも報告されています[7][8]。ですから基準値を数倍超える程度の牛肉であれば、加工品として十分利用できる(廃棄する必要はない)はずです(土壌汚染対策の項も参考にしてください)。

ただし、一般家庭で肉を塩水に漬ける等はしなくてよいと思います。さまざまな食品を食べてセシウム量を薄めるだけで基準値以下まで問題なく下げられます。健康被害のリスクという観点からは、生肉を食べて食中毒を起こすほうがずっと危険です。東京都内の食中毒発生トップ4は、1. ノロウイルス 2. カンピロバクター 3. ウェルシュ菌 4. サルモネラで(東京都福祉保健局による過去10年の統計。年による変動は大きいです)、2~4は動物の常在菌です。もともと日本に生食できる鶏・豚・牛肉というものは存在しません。ドイツや日本で食中毒による死亡が相次いでいますが、放射線の影響は、あるとしても発がん率が数%上がるかどうかというレベルなのです。

参考文献
  1. もともとは産業技術総合研究所の川尻耕太郎さんがまとめていたサイトを引き継いでいるそうです。先浜直子様に教えていただきました。ありがとうございます。
  2. Voigt G, Prohl G, muller H, Bauer T, Lindner JP, Probstmeier G, Rohrmoser G (1989) "Determination of the transfer of cesium and iodine from feed into domestic animals" The Science of the Total Environment 85:329-338
  3. 牛乳は半減期1.5日のカーブ80%と、半減期15日のカーブ20%の和が良く一致するそうです
  4. コープ山口 牛肉の基礎知識
  5. 日本獣医畜産大学畜産食品工学科肉学教室によるミートジャーナル記事 「肉の常識
  6. 養鶏学コーナー
  7. Wahl R, Kallee E (1986) "Decontamination puts meat in a pickle" Nature 323(6085):208 PMID 3762671 この報告は論文ではなく、通信欄の短い記事です
  8. Franić Z, Sencar J, Bauman A (1993) "Speeding up meat decontamination by freezing" Health Phys. 65(2):216-7 PMID 8330971 凍らせて細胞を破砕しておけば数時間塩水につけるだけでセシウムを除去できるとする報告
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