Doc:Radiation/Basic
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放射性同位体と人体への影響
線量限度
(知恵蔵2011より)
個人が受ける放射線量をできるだけ抑えるために設定された値をいいます。国際放射線防護委員会(ICRP)が、主として広島、長崎の原爆被爆者のデータを解析して勧告の形で発表している値は、一般人について年間1mSv (ミリシーベルト)、放射線作業従事者には5年間の年平均で20mSv (ただしどの年も50mSvを超えない)です。ただし自然界から普通にうける放射線、レントゲン等の医療放射線は除外します。これは「合理的に達成できる限り制限する」との方針に基づいています。
(知恵蔵ここまで)
- 1 mSv / year 国際放射線防護委員会が勧告する限度 (自然放射線、医療放射線を除く)
- 1.4 mSv / year 自然界から受ける放射線量の日本平均
- 2.4 mSv / year 自然界から受ける放射線量の世界平均 (1988年国連科学委員会報告)[1]
- 6.9 mSv 1回の胸部CTスキャンで浴びる量
- 100 mSv 国立がん研究センターの発表[2]で発ガンリスク 0 とされる線量
- 200 mSv 短期間に浴びると一部の人にがんが発生する可能性があるとされる値
- 260 mSv / year 自然放射線量が多いとされるイラン・ラムサール地域の線量最高値[3]
(ただしウェブサイト[4]に記載された平均値は 10 mSv / year)
- 参考文献
- ↑ この値を普通に生活して浴びる自然放射線量という報道が多いようです。日本ではもっと低くなります。
- ↑ ホームページに資料があります。
- ↑ サイエンス誌の記事 には線量が260 mグレイ/年とあります。ラムサール地域の人に発ガン率が高いことは全くなく、むしろ健康であることをradiation paradoxとして紹介しています。グレイからシーベルトへの換算には、放射線がベータ線であるとしました。換算は青森の排出放射性物質調査を参考にしました。英語版ウィキペディアを含む多くのウェブサイトでインドのラムサール地方の年間放射線量が 260 mSv/year と記述されていますが、正確には mGray の間違いでしょう。
- ↑ 公益財団法人体質研究会が公開する世界の高自然放射線地域の健康調査には詳しい情報が記載されています。放射線量が年間平均 3.5 (報告された最高値5.4) mSv の中国・陽江、3.8 (最高35) mSv のインド・ケララ地方、10.2 (最高260) mSv のイラン・ラムサール地方における疫学調査で発がん率の増加が認められないことも記されています。
ベクレル, キュリー, グレイ, シーベルト
放射線の吸収度合いを表す単位がグレイ (Gy), 特に人体への影響度合いをあらわすのがシーベルト (Sv) 、放射性物質が放射線を出す能力をベクレル (Bq) または キュリー (Ci) であらわします。ベクレルの詳細についてはウィキペディアを参考にしてください。キュリーは扱う線量が大きいので人体への影響を扱う際には使われません。
- 定義 1キュリー (Ci) = 3.7×1010 ベクレル (Bq)
グレイやシーベルトは人体への影響度合い(吸収される線量)なので、物理的に正確に計測することは難しいと思われます。グレイは吸収線量(放射線が何個吸収されたか)という量で、それに放射線の種類によって異なる係数を掛けたもの(線量当量と呼ぶ)がシーベルトです。ここでの係数は、X線, β線, γ線の場合 1 ですから、これらを出すセシウムやヨウ素については グレイ = (イコール) シーベルト と考えて問題ないでしょう。
- 1グレイ (Gy) = 1 シーベルト (Sv)
ベクレルからシーベルトへの換算は放射性物質毎に異なります。以下の表は原子力資料情報室から作成しました。
記号 | 名前 | 半減期 | 解説 | 吸入摂取した場合の実効線量係数(mSv/Bq) | 経口摂取した場合の実効線量係数 (mSv/Bq) |
---|---|---|---|---|---|
137Cs | セシウム-137 | 30.1年 | セシウムの代表的な放射性同位体。ベータ線とガンマ線を出してバリウム-137になります。 | 6.7×10-6 | 1.3×10-5 |
90Sr | ストロンチウム-90 | 29.1年 | ベータ線を放出してイットリウム-90、更にベータ線を放出してジルコニウム-90になります。 | 7.7×10-5 (チタン酸ストロンチウムの場合) 3.0×10-5 (それ以外) |
2.7×10-6 (チタン酸ストロンチウムの場合) 2.8×10-5 (それ以外) |
131I | ヨウ素-131 | 8.04日 | ベータ線を放出してキセノン-131となり、ガンマ線も出します。 | 1.1×10-5 (ヨウ素化メチル以外) | 2.2×10-5 (ヨウ素化メチル以外) |
野菜の汚染
今回、飯館村で採取された野菜からは1kg当たり放射性ヨウ素17,000ベクレル、セシウム13,900ベクレルが計測されました (2011年3月24日の報道。厚生労働省による)。1日の野菜摂取量の目安は350gなので、汚染された野菜を洗ったりせずに蒸すなどして1日分食べると
17000 × 2.2 × 10-5 × 0.35 = 0.13 mSv
13900 × 1.3 × 10-5 × 0.35 = 0.063 mSv
の被曝を受けます。単純計算で1週間食べ続けると
(0.13 + 0.063) × 7 ≒ 1.35 mSv
になります。ヨウ素-131が環境中に放出され続け、今後も減らないという仮定して上記の量を食べ続けると、37週目で放射線従事者の年間限度である 50 mSv に達します。
実際は洗い流す等の処理で圧倒的に低い放射線量に下がるでしょうから、飯館村で採取された野菜を食べ続けたとしても、発がんリスクは無いというのが科学的な判断です。
- 厚生省の基準値
厚生労働省の定める野菜の摂取制限指標は1kgあたり2,000ベクレルです。上記と同様の計算をおこなってみましょう。ヨウ素-131により基準値ぎりぎり2000ベクレルの汚染がある野菜を、洗いもしないでそのまま1年間摂取し続けた場合
2000 × 2.2 × 10-5 × 0.35 × 365 = 5.62 mSv
の被曝を受けます。
水道水の汚染
日本における基準値は、1 リットル当たり成人が 300 ベクレル、乳児が 100 ベクレルです。 WHOから資料が出ているので参考にしてください。1 リットルあたり 300 ベクレルの水を飲んでも年間2.5 mSv と計算されています。汚染がヨウ素-131に基づくと仮定すると、1日あたり
2.5 / (2.2 10-5 × 300 × 365) = 1.04 リットル
汚染水を摂取する計算になっています。水として飲む分は1リットルかもしれませんが、料理に含まれる水分もご飯のように多くの水道水を含みます。人間が一日に必要とする水の量は3リットル程度と考えられるので[1]、その水分すべてが汚染されているのなら、年間 2.5 × 3 = 7.5 mSv になるでしょう。この値でも発がんリスクは0であり、健康には何ら影響がありません。
- ↑ 一日に体から排出される水分量が2.3リットルという情報がサントリーのウェブサイトにあります。
放射線量と環境
海水汚染と放射能
高度に汚染された水が福島原発2号機に溜まっていることが報道されています。 報道における汚染度は1 cc (1 ml)のベクレル数で表記されていますが、どの程度の水が高濃度に汚染されているのかを把握することは重要です。
- 758 × 109 Bq フランスのラ・アーグ再処理工場からの2003年の排水中への放射性物質放出量[1]
- 13 × 106 Bq / 1cc = 13 × 1012 Bq / ton 福島原発2号機において計測されたヨウ素-131の放射線量
- 22 × 105 Bq / 1cc = 22 × 1011 Bq / ton 福島原発2号機において計測されたセシウム-134および137の放射線量
- 252 × 1012 Bq 旧ソ連が1966年から1992年にかけて極東海域に廃棄した固体放射性廃棄物 6,812Ci[2]
- 455 × 1012 Bq 旧ソ連が1966年から1992年にかけて極東海域[3]に廃棄した液体放射性廃棄物 12,337Ci
- 8.5 1016 Bq チェルノブイリ原発事故で10日間に放出されたセシウム-137の量
- 176 1016 Bq チェルノブイリ原発事故で10日間に放出されたヨウ素-131の量
もし汚染された水が 40 トン分あるとしたら、旧ソ連が25年間かけて極東海域に廃棄した液体放射性廃棄物の量に匹敵します。
- 参考
喫煙とシーベルト
これから書きます。