Doc:Radiation/Contamination

From Metabolomics.JP
< Doc:Radiation(Difference between revisions)
Jump to: navigation, search
(基準値を超えた牛乳や肉も利用できる)
m (土壌汚染を防ぐには)
 
(11 intermediate revisions by one user not shown)
Line 1: Line 1:
 
{{Radiation/Header}}
 
{{Radiation/Header}}
 +
{| style="float:right"
 +
| __TOC__
 +
|}
 +
==土壌汚染==
  
==土壌汚染の程度==
 
 
;まとめ
 
;まとめ
 +
* まずは文部科学省による[http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1910/2011/09/1910_092917_1.pdf 埼玉県及び千葉県の航空機モニタリングの測定結果] をご覧ください(2011年9月29日)
 +
* '''福島県内の高濃度汚染地域と同レベルに汚染された地域は、栃木県や群馬県内にも存在します'''
 
* チェルノブイリ事故において土壌が「汚染」されたとする指標は
 
* チェルノブイリ事故において土壌が「汚染」されたとする指標は
 
<center>1m<sup>2</sup>あたり 37000 Bq (37kベクレル)、おおよそ 1850 &sim; 493 Bq / kg 土壌 </center> です。3万7千ベクレルという値は、1km<sup>2</sup>あたり 1 Ci (キュリー) に同値です。
 
<center>1m<sup>2</sup>あたり 37000 Bq (37kベクレル)、おおよそ 1850 &sim; 493 Bq / kg 土壌 </center> です。3万7千ベクレルという値は、1km<sup>2</sup>あたり 1 Ci (キュリー) に同値です。
 
* チェルノブイリ近辺では、上記の汚染地域には立ち入り禁止になっています (長期的に住むことは健康被害の可能性が高い)
 
* チェルノブイリ近辺では、上記の汚染地域には立ち入り禁止になっています (長期的に住むことは健康被害の可能性が高い)
* 福島県の各所では、上記の汚染基準よりも高い放射線量が観測されています<ref>[http://www.town.miharu.fukushima.jp/06etc/06saigai/pdf/nogyo/230406data.pdf 福島県における放射性物質の測定結果]</ref>
+
* 群馬県、栃木県、福島県では、上記の汚染基準よりも高い放射線量が観測されています<ref>[http://www.town.miharu.fukushima.jp/06etc/06saigai/pdf/nogyo/230406data.pdf 福島県における放射性物質の測定結果]</ref>
 
** これらの汚染地域からは、(いますぐではなくても)人と家畜を他所に移す、土壌改良等によりセシウム量を減らす措置を早急に取るべき<ref>旧ソ連では事故がおきた翌月1987年5月には30km圏内にいた5万の牛, 1万3千の豚, 3300の羊, 700の馬を移住させています。同時に2万の家畜や犬猫が埋められました。しかし、移動した家畜を安定して飼うこともできず、その後7月までに移住させた家畜も含み95500の牛, 23000の豚が埋められました。(Nadtochiy P, Malinovskiy A, Mogar AO, Lazarev N, Kashparov V, Melnik A. Experience of liquidation of the Chernobyl accident consequences. Kiev: Svit; 2003)</ref><ref>IAEA. International Atomic Energy Agency. Environmental consequences of the Chernobyl accident and their remediation: twenty years of experience. Report of the UN Chernobyl Forum Expert Group “Environment” (EGE). Vienna, IAEA; 2006</ref>、そして
 
** これらの汚染地域からは、(いますぐではなくても)人と家畜を他所に移す、土壌改良等によりセシウム量を減らす措置を早急に取るべき<ref>旧ソ連では事故がおきた翌月1987年5月には30km圏内にいた5万の牛, 1万3千の豚, 3300の羊, 700の馬を移住させています。同時に2万の家畜や犬猫が埋められました。しかし、移動した家畜を安定して飼うこともできず、その後7月までに移住させた家畜も含み95500の牛, 23000の豚が埋められました。(Nadtochiy P, Malinovskiy A, Mogar AO, Lazarev N, Kashparov V, Melnik A. Experience of liquidation of the Chernobyl accident consequences. Kiev: Svit; 2003)</ref><ref>IAEA. International Atomic Energy Agency. Environmental consequences of the Chernobyl accident and their remediation: twenty years of experience. Report of the UN Chernobyl Forum Expert Group “Environment” (EGE). Vienna, IAEA; 2006</ref>、そして
** 周辺地域における農畜産業については、セシウム被害を広げないために緊急に対策が必要でしょう
+
** これらの地域における農畜産業については、セシウム被害を広げないために緊急に対策が必要です
 +
** 通常の農産物にはほぼ影響ありませんが([[Doc:Radiation/Agriculture|移行係数]]を参考)、一部の野菜・キノコ類は栽培を避ける、放牧にも気を付けることが重要です
  
<br/>
+
==土は有機物と無機物からできている==
;参考になる総説(英文)このページの内容、表などは以下の文献からとっています
+
土には岩石由来の無機物(大きく分けて砂と粘土)と、生物由来の有機物が含まれます。植物は根によってミネラル等の栄養素を無機物からも有機物からも吸収します。例えば種々の金属イオンに加え、有機酸、アミノ酸、糖などを根から吸収します。
* Fesenko et al. "An extended critical review of twenty years of countermeasures used in agriculture after the Chernobyl accident" ''Sci Total Environ'' 383(1):1-24 PMID 17573097
+
  
<br/>
+
植物を用いて土壌中の重金属等を選択的に蓄積、除去する手法をファイトレメディエーションといいます。セシウムは植物にとって不要の元素ですが、カリウムと誤って取り込まれることが知られています。しかし、カリウムが十分にある状態ではセシウムを吸収しにくくなることも知られています([[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーションの項]]を参照)。
 +
土壌がセシウムを強固に吸着するとファイトレメディエーションを難しくしますが、逆に農作物にもセシウムが含まれにくくなります。土壌の性質をよく理解することは汚染地域の浄化や農業においてたいへん重要です。
  
 +
==汚染の程度==
 
3月20日の報道によると、原発から北西に約40kmの福島県飯舘村で163000 Bq/kg 土壌の、Cs-137による汚染が見つかっています。この、kg土壌あたりのベクレル値に対し、国連やチェルノブイリ関係の資料では、通常1m<sup>2</sup>あたりのベクレル値が使われます。換算の目安として、同じ朝日新聞記事に、京都大原子炉実験所の今中哲二助教(原子力工学)の換算で1m<sup>2</sup>あたり3,260,000 Bq<ref>これはkgあたりのベクレル数を20倍して1m<sup>2</sup>あたりにしています</ref>、金沢大の山本政儀教授(環境放射能学)の換算(1m<sup>2</sup>&times;5cm, 土壌密度1.5程度と仮定)でセシウム濃度約12,000,000 Bqという算定があります<ref>これはkgあたりのベクレル数を73.6倍して1m<sup>2</sup>あたりにしています</ref>。山本教授の値は今中助教の値よりもずっと大きく、またセシウムがすぐに土壌 5cm に浸透することは考えにくいのですが ([[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーション]]のページを参考にしてください)、1m<sup>2</sup>あたりのベクレル数を求めるのにkgあたりのベクレル数を20&sim;75倍する換算法は下限値および上限値の見積もりとして妥当と思われます。
 
3月20日の報道によると、原発から北西に約40kmの福島県飯舘村で163000 Bq/kg 土壌の、Cs-137による汚染が見つかっています。この、kg土壌あたりのベクレル値に対し、国連やチェルノブイリ関係の資料では、通常1m<sup>2</sup>あたりのベクレル値が使われます。換算の目安として、同じ朝日新聞記事に、京都大原子炉実験所の今中哲二助教(原子力工学)の換算で1m<sup>2</sup>あたり3,260,000 Bq<ref>これはkgあたりのベクレル数を20倍して1m<sup>2</sup>あたりにしています</ref>、金沢大の山本政儀教授(環境放射能学)の換算(1m<sup>2</sup>&times;5cm, 土壌密度1.5程度と仮定)でセシウム濃度約12,000,000 Bqという算定があります<ref>これはkgあたりのベクレル数を73.6倍して1m<sup>2</sup>あたりにしています</ref>。山本教授の値は今中助教の値よりもずっと大きく、またセシウムがすぐに土壌 5cm に浸透することは考えにくいのですが ([[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーション]]のページを参考にしてください)、1m<sup>2</sup>あたりのベクレル数を求めるのにkgあたりのベクレル数を20&sim;75倍する換算法は下限値および上限値の見積もりとして妥当と思われます。
  
 
飯舘村の汚染度について4月6日の時点では、水田でおよそ15000 Bq/kg が計測されています。これは長期的に居住するには適切でない、大変高い値です。
 
飯舘村の汚染度について4月6日の時点では、水田でおよそ15000 Bq/kg が計測されています。これは長期的に居住するには適切でない、大変高い値です。
  
;参考情報
 
<references/>
 
  
==食品汚染を防ぐには==
+
===稲わらから推測される土壌汚染===
 +
7月に入って次々報道される稲わらの汚染状況は、上記の土壌汚染よりもずっと高い値を示しています。(7月26日産経新聞によると栃木県那須塩原市で10万6千ベクレル、茨城県高萩市で6万4千ベクレルなど)これは、原子力発電所から離れたところでもスポット的に高濃度のセシウムが存在していることを示唆しています(周囲の土壌は稲わらと同程度に汚染されているはずです)。
  
ソビエト連邦で1986-1991に定められた、食品における放射線の暫定基準値(Temporary Permissible Levels (TPL), Bq/kg)<ref name="IAEA91">IAEA. International Atomic Energy Agency. The International Chernobyl Project. Assessment of radiological consequences and evaluation of protective measures. Report by an International Advisory Committee. Vienna, IAEA; 1991</ref><ref>Balonov MI (1993) Overview of dose to the Soviet population from the Chernobyl accident and protective actions applied. In: Merwin S, Balonov M, editors. The Chernobyl papers, I, doses to the Soviet population and early health effects studies. Richland: Research Enterprises, pp.23–45</ref>
+
こうしたデータをより詳細にとることは大変重要です。稲わらを食べる牛だけでなく、稲わらを集めた地域に住んでいる人が放射線の危険にさらされているからです。
を示します。現在の日本の基準値はこれよりも厳しくなっているので、食品すべてが検査されているのであれば、とりあえず安心でしょう。
+
  
{| class="wikitable"
+
;参考情報
! TPL || 4104-88 || 129-252 || TPL-88
+
<references/>
!colspan="2"| TPL-91
+
|-
+
! 採択日 || 06.05.1986 || 30.05.1986 || 15.12.1987
+
!colspan="2"| 22.01.1991
+
|-
+
! 核種 || <sup>131</sup>I || β-emitters || <sup>134+137</sup>Cs || <sup>134+137</sup>Cs || <sup>90</sup>Sr
+
|-
+
| 牛乳 || 370–3700 || 370–3700 || 370 || 370 || 37
+
|-
+
| 乳製品 || 18,500–74,000  || 3700–18,500  || 370–1850  || 370–1850  || 37–185
+
|-
+
| 肉・肉製品 || –  || 3700  || 1850–3000  || 740 || –
+
|-
+
| 魚介類 || 37,000  || 3700  || 1850  || 740  || –
+
|-
+
| 卵 || –  || 37,000  || 1850  || 740  || –
+
|-
+
|野菜・果実・根菜類 || –  || 3700  || 740  || 600  || 37
+
|-
+
| パン・小麦・穀類 || -  ||  370  || 370  || 370  || 37
+
|}
+
 
+
===食品汚染への対策===
+
チェルノブイリ事故では、汚染された牛乳を摂取した子供が甲状腺がんを患うという健康被害を出しました。その反省および対策として、以下の対策がとられています。これらは日本の土壌汚染についてもあてはまるでしょう。'''長期的な視点で一番問題になるのは、農作物と食肉のセシウム汚染です。'''
+
<br/>
+
 
+
;半減期の短い放射性ヨウ素汚染の広がりを防ぐために
+
* 牛乳の放射線検査を徹底すること
+
* (放射線検査に不合格の)牛乳は、チーズやバターに加工する
+
* 家畜は放牧せずに屋内で汚染されていない飼料を与えること
+
 
+
;半減期の長い放射性セシウム汚染の広がりを防ぐために
+
* 農産物、家畜、肉、牛乳は放射線検査を徹底する (これが一番重要)
+
* 牧草でなくとうもろこし等を飼料に与える
+
* 牛にはプルシアンブルー(セシウムの排出を促す)を与える
+
* 汚染された家畜の糞を肥料として利用しない
+
* 農作物はできるだけ外気に触れない(屋内などで)栽培する
+
* きのこは摂取しない(きのこは重金属類を蓄積しやすい)
+
* 地元で(未検査の)牛乳や農産物を消費しない
+
 
+
===基準値を超えた牛乳や肉も利用できる===
+
加工品にすることで、含まれる放射性物質を減らすことが可能です。とりわけ牛乳や精肉で基準値を超えるような場合は、加工品とすることで安全に消費することが可能です。牛乳はバターにする、果物は(100%でない)ジュースにする、野菜や肉は煮込んで使うことにより、放射性物質の量を軽減できます。基準値は長期間食べ続けても大丈夫な量をもとに設定されているため、基準値を下回れば健康に被害はありません (基準値については[[Doc:Radiation|放射線]]のページをご覧ください)。
+
 
+
<center>
+
{| class="wikitable" style="width:80%"
+
|+ 食品加工による放射性物質の軽減比(加工後 / 加工前) <ref>Brown J, Ivanov Y, Perepelaytnikova LV, Prister B, Fesenko SV, Sanzharova NI, et al. (1995) Comparison of data from the Ukraine, Russia and Belarus on the effectiveness of agricultural countermeasures. NRPB-M597. Didcot: NRPB</ref><ref>Bogdevitch I, Bogdevitch Yu, Rigney C, Chupov A. (2002) Edible oil production from rapeseed grown on contaminated lands. Innovations forum Westschopfugsketten in der Naturstoffverarbeitung. 10 und 11 Dezember 2001 Gardelegen; pp148-56</ref>
+
|-
+
! 対策 || <sup>137</sup>Cs || <sup>90</sup>Sr
+
|-
+
| 小麦を製粉する || 0.3-0.9 || 0.2-0.4
+
|-
+
| 小麦をふすまにする || 3 || 3
+
|-
+
| 野菜、果物等を洗う || 0.8-0.9 || 0.8-1
+
|-
+
| 野菜、果物等を煮る || 0.5-0.8 || 0.8
+
|-
+
| 野菜、果物等を漬ける || 0.2-0.9 || -
+
|-
+
| 野菜、果物等をジュースにする || 0.4-1 || 0.01-0.5
+
|-
+
| ビートを砂糖にする|| 0.01-0.08 || -
+
|-
+
| ジャガイモを澱粉にする || 0.12-0.17 || -
+
|-
+
| きのこを洗う|| 0.4 || -
+
|-
+
| きのこを茹でる|| 0.1-0.3 || -
+
|-
+
| きのこを水にひたす || 0.1 || -
+
|-
+
| きのこを漬ける || 0.1-0.2 || -
+
|-
+
| 牛乳をバターにする || 0.2-0.3 || 0.1-0.5
+
|-
+
| 牛乳をクリームにする(脂肪10.3%) || 0.7-0.9 || 0.7-0.9
+
|-
+
| 牛乳をコンデンスミルクにする || 2.7 || 2.7
+
|-
+
| 牛乳を粉ミルクにする || 8 || 8
+
|-
+
| 牛乳をチーズにする(レンネット) || 0.5-0.6 || 6-8
+
|-
+
| 牛乳をカゼイン(カテージチーズ)にする || 0.03 || 4
+
|-
+
| 肉を煮込む || 0.1-0.5 || -
+
|-
+
| 肉を塩水にひたす || 0.02-0.7 || -
+
|-
+
| ナタネから油をとる || 0.004 || 0.002
+
|}
+
</center>
+
上の表は、文献からそのまま転記していますが、おかしく感じられる点もあります(肉を水に浸すという表記は塩水と思われます。[[Doc:Radiation/Food|食品]]の項を参照してください)。しかし、加工品にすることで基準値を下回るのであれば、むやみに廃棄するのではなく加工して利用する道を模索すべきでしょう。
+
 
+
なぜならセシウム被害はここ数ヶ月の問題ではなく、これから何十年もお付き合いしなくてはならない問題だからです。いつまでも廃棄して済まされるものではありませんし、廃棄する習慣をつけないほうが将来のためだと思います。加工により放射線量が下がる程度については、高度情報科学技術研究機構による[http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-03-04 ATOMICA百科事典上の記述]も参考にしてください。
+
 
+
===セシウムから家畜をどう守るか===
+
;まとめ
+
* 鳥や豚は影響なし
+
* 牛や羊は、放射線量が高い地域で放牧しない
+
* 放牧する場合、出荷1ヶ月前にセシウム量を半減させるには、汚染されていない飼料やプルシアンブルーを与える
+
 
+
セシウムを含む飼料を与えないことが基本です。出荷までの期間が短い鳥、豚のように配合飼料を与える場合、通常通り飼育して大丈夫です(飲み水にはヨウ素131が含まれる可能性がありますが、半減期が短いので食肉の安全性に問題はありません)。放牧させる牛や羊は、出荷の前にセシウムに汚染された牧草を食べさせなければ大丈夫です。
+
 
+
;放射線の汚染は数キロ単位で大きく違う
+
原発から 30 km 以上も離れた飯舘村が高濃度の放射線という事実からもわかるように、放射線の値は数キロ単位で大きく異なります。逆に言うと、放射線量をきちんと測れば、数キロ先にはきれいな牧草地、放牧地が存在する可能性が高いということです。
+
 
+
;放射線量が高い家畜でも数ヶ月で元に戻る
+
セシウムはカリウムの代替元素として体内に均等に分布し、ヒトの場合 3ヶ月 (110日) でおよそ半分が排出されます。また、プルシアンブルーを与えると、腸内におけるセシウムの再吸収を妨げるので半減期が1ヶ月 (30日) に短縮されます。<ref>アメリカ疾病予防管理センターによる[http://www.bt.cdc.gov/radiation/pdf/prussian-blue.pdf プルシアンブルーの情報]より。当然ですが、この間はセシウムを摂取してはいけません。</ref><ref>プルシアンブルーのカプセルは [http://www.heyltex.com/pdf/RadiogardaseFlyer.pdf Radiogardase] (Heyltex, Germany) の名前で一般にも販売されています。成人の場合、500 mg のカプセルを一日 3 回、1ヶ月程度服用します(量は症状にも依存)。ヒトの場合、90カプセル(1ヵ月分)が3万円ほどで販売されています。家畜に体重に比例する量を与えるとすると、牛の場合、1ヶ月の薬代だけで十万円以上になってしまいます。政府の援助等が無い限り、個人では負担できない額と思われます。</ref>
+
また、イギリスの研究者による論文をみると子羊におけるセシウムの生物学的半減期を 11 日とし、<ref name="Nisbet">Nisbet A, Woodman R (2000) "Options for the management of Chernobyl-restricted areas in England and Wales" ''J Environ Radioactivity'' 51:239-254 ([http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X00000801 pdf])</ref>、念のために 1 ヶ月きれいな牧草を食べさせて出荷する方法を検討しているので、草を大量に食べる(カリウム摂取量が多い)羊や牛は生物学的半減期もヒトの場合より短いようです。
+
 
+
家畜は屠殺する前でも食肉の放射線量を測ることができます。(筋肉の放射線量を体外から測るだけでよい。)
+
食肉のセシウム量基準は 500 Bq / kg ですから、体外から測って例えば 300 Bq / kg 以上のものは出荷を延期すればよいだけです。延期後は、できるだけきれいな牧草を 1 ヶ月食べさせればよいでしょう。
+
 
+
;ケーススタディ 英国の場合
+
ヨーロッパではチェルノブイリ事故の影響で 20 年経った今でも放牧する羊を出荷できない地域があります。たとえば英国のウェールズ北部です。ヨーロッパの[[Doc:Radiation/Food|セシウム出荷基準]]は日本より緩い 1000 Bq / kg です。羊の放射線量を体外から測定し基準を超えそうなら雨でも落ちない「印」をつけて牧草地に戻す、基準内なら出荷するという措置を続けています。この 「目印放牧」 (mark and release) 方式は、コスト計算をすると
+
 
+
きれいな牧草地のみを利用 < (出荷する市場が限られる場合)市場でチェック < 目印放牧 << 屋内できれいな飼料を与える < 汚染された牧草地を土壌改良
+
  
という順になっています<ref name="Nisbet"/>。日本で食肉の流通経路をくまなくチェックすることは難しいと思うので<ref>これは推測です</ref>、放牧する家畜の放射線量を体外から測定する制度を開始することは有効だと思います。
 
  
 
==土壌汚染を防ぐには==
 
==土壌汚染を防ぐには==
Line 179: Line 65:
  
 
* セシウムをよく吸収する(可能性のある)作物は植えない
 
* セシウムをよく吸収する(可能性のある)作物は植えない
: セシウムの吸収率は植物によって大幅に異なります。吸収率が高いとされている[[:Category:Amaranthaceae|アカザ科、ヒユ科]]<ref>最新の植物分類体系APG-IIでは、アカザ科はヒユ科に含まれます。ヒユ科の植物であるカラシ菜は土壌中の重金属を回収するために用いられる代表的植物です。学名で言うと[[Species:Amaranthus|Amaranthus]]属の植物が、多くのファイトレメディエーション研究で用いられています。</ref>の作物は植えないようにします。'''植えるべきではない作物名はたとえば、ホウレンソウ、カラシ菜、ホウキグサ(ニワクサ)、オカヒジキ、アマランサス、フダンソウ、ビートです。''' また、きのこ類も一般に重金属を多く蓄積するので、きのこは栽培しないほうがよいでしょう。サトウダイコン(ビート)はヒユ科ですが、砂糖を取るために栽培するのであれば、精製時にセシウムが排除されるので栽培して問題ありません。
+
: セシウムの吸収率は植物によって大幅に異なります。吸収率が高いとされている[[:Category:Amaranthaceae|アカザ科、ヒユ科]]<ref>最新の植物分類体系APG-IIでは、アカザ科はヒユ科に含まれます。ヒユ科の植物であるカラシ菜は土壌中の重金属を回収するために用いられる代表的植物です。学名で言うと[[Species:Amaranthus|Amaranthus]]属の植物が、多くのファイトレメディエーション研究で用いられています。</ref>の作物は植えないようにします。'''植えるべきではない作物名はたとえば、ホウレンソウ、カラシナ、ホウキグサ(ニワクサ)、オカヒジキ、アマランサス、フダンソウ、ビートです。''' また、きのこ類も一般に重金属を多く蓄積するので、きのこは栽培しないほうがよいでしょう。サトウダイコン(ビート)はヒユ科ですが、砂糖を取るために栽培するのであれば、精製時にセシウムが排除されるので栽培して問題ありません。
  
 
* 菜種、菜の花を植える
 
* 菜種、菜の花を植える
Line 193: Line 79:
 
いずれも回収した土や植物体からどうやってセシウムを抽出するかが問題ですが、汚染された面積から考えると立ち入り禁止区域を設けてそこに廃棄していくのが一番現実的だと思います。またこうした場所に植える植物には手間をかけることが出来ませんから、農作物よりは雑草のような植物が適していると思われます。可能性のある植物については[[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーション]]をご覧ください。
 
いずれも回収した土や植物体からどうやってセシウムを抽出するかが問題ですが、汚染された面積から考えると立ち入り禁止区域を設けてそこに廃棄していくのが一番現実的だと思います。またこうした場所に植える植物には手間をかけることが出来ませんから、農作物よりは雑草のような植物が適していると思われます。可能性のある植物については[[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーション]]をご覧ください。
  
 
+
==ゼオライトは有効でない==
===ゼオライトは有効か===
+
 
原発事故の汚染水を浄化するのにゼオライトが用いられて脚光を浴びていますが、ゼオライトを土壌に混ぜると放射性セシウムやストロンチウムの植物による吸収量が下がることも報告されています<ref>英文の簡単な総説 [http://www.pnas.org/content/96/7/3463.full?sid=3bcf8a83-3968-4c2a-a832-f4f6fdd75de2 Mumpton FA (1999) "La roca magica: Uses of natural zeolites in agriculture and industry" Proc Natl Acad Sci U S A 96(7):3463-3470] に多くの文献が引用されています。ゼオライトがチェルノブイリやスリーマイル事故でも用いられたことは多くのウェブサイトでも報じられています。とりわけクリノプチロライト (clinoptilolite) と呼ばれる天然ゼオライトのカチオン吸着度は
 
原発事故の汚染水を浄化するのにゼオライトが用いられて脚光を浴びていますが、ゼオライトを土壌に混ぜると放射性セシウムやストロンチウムの植物による吸収量が下がることも報告されています<ref>英文の簡単な総説 [http://www.pnas.org/content/96/7/3463.full?sid=3bcf8a83-3968-4c2a-a832-f4f6fdd75de2 Mumpton FA (1999) "La roca magica: Uses of natural zeolites in agriculture and industry" Proc Natl Acad Sci U S A 96(7):3463-3470] に多くの文献が引用されています。ゼオライトがチェルノブイリやスリーマイル事故でも用いられたことは多くのウェブサイトでも報じられています。とりわけクリノプチロライト (clinoptilolite) と呼ばれる天然ゼオライトのカチオン吸着度は
 
<center>
 
<center>
 
Cs > Rb > K > NH4 > Ba > Sr > Na > Ca > Fe > Al > Mg > Li
 
Cs > Rb > K > NH4 > Ba > Sr > Na > Ca > Fe > Al > Mg > Li
 
</center>
 
</center>
となっているため、セシウムのような大きなカチオンには有効とされています。(通常はアンモニアNH4を吸着させるために用いられます。)</ref>。しかし、福島の土壌ではゼオライトはそれほど有効では無さそうです。[[Doc:Radiation/Clay Minerals|土壌とセシウムの項]]をご覧ください。
+
となっているため、セシウムのような大きなカチオンには有効とされています。(通常はアンモニアNH4を吸着させるために用いられます。)</ref>。しかし、福島の土壌ではゼオライトはそれほど有効では無さそうです。
 +
 
 +
===セシウム吸着の程度は土壌によって異なる===
 +
;まとめ
 +
* 雲母類を含む土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
 +
* バーミキュライトやスメクタイト(いずれも膨張性の2:1型層状ケイ酸塩鉱物)を含む土壌では、層と層の間にある負電荷にセシウムが強固に吸着される
 +
* 粘土鉱物を含まない土壌(砂地、泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
 +
* 日本の土壌はセシウムを固定しやすい
 +
 
 +
<br/>
 +
 
 +
土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます<ref>ウィキペディア英語版 [http://en.wikipedia.org/wiki/Clay_minerals Clay minerals]</ref>。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイトなど)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイトなど)に分けられます。
 +
 
 +
最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。
 +
 
 +
<center>
 +
{| class="wikitable"
 +
|+ 土壌における粘土鉱物の種類
 +
|-
 +
! 総称 || 代表的名称 || 性質 || 層比 || X線回折のピーク
 +
|-
 +
| 1:1型粘土鉱物
 +
| カオリナイト (kaolinite)、ディッカイト (dickite) など
 +
| 様々な構造をとりうるが、層荷電を持たないためセシウムの吸着力は小さい
 +
| 1:1
 +
| 0.7 nm
 +
|-
 +
| 雲母類
 +
| 雲母 (mica) 、イライト (illite)
 +
| 層の間にカリウムなど金属イオンを強固に吸着。末端破壊部(FES)は、とりわけセシウムを強固に吸着<ref name="komarneni">Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" ''Science'' 239(4845), 1286-128 PMID 17833215</ref>
 +
| 2:1
 +
| 1.0 nm
 +
|-
 +
| 膨張性の2:1型粘土鉱物
 +
| バーミキュライト (vermiculite) 、スメクタイト (smectite) など
 +
| 四面体層に由来する荷電が多いほどセシウムを強固に吸着
 +
| 2:1
 +
| 1.4 nm<ref>バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。</ref>
 +
|-
 +
| その他の2:1型粘土鉱物
 +
| クロライト (chlorite)、滑石 (talc) など
 +
| 膨張性を持たない
 +
| 2:1
 +
| 1.4 nm
 +
|}
 +
</center>
 +
 
 +
日本の土壌環境では化学風化が進みやすいため、母岩(土壌のもととなる岩)に元々含まれる雲母(イライト)の一部が風化してバーミキュライトやスメクタイトに変化しています。こうしたスメクタイトなどの層間は負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します<ref name="funakawa">舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 ([http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/80161 英語全文])</ref>。
 +
 
 +
セシウムを固定する能力はスメクタイト土壌により異なります。日本のスメクタイト土壌は表面荷電が四面体層に由来し、セシウム吸着後に雲母型の構造を取って、他の陽イオンでは極めて置換されにくくなります。つまりセシウムを選択的に固定します。これに対して、チェルノブイリ事故があったウクライナのスメクタイト土壌は表面荷電が八面体層に由来すると推測され、セシウムに対して強い選択性を示さず、いったん吸着されたセシウムも他種の陽イオンによって置換されやすくなります<ref name="funakawa"/><ref>粘土鉱物の分類およびセシウムに対するスメクタイト成分の詳しい解説は、京都大学 大学院農学研究科 舟川晋也先生、環境科学技術研究所 環境動態研究部 中尾淳先生に丁寧に教えて戴きました。ありがとうございます。</ref>。ただし、ウクライナの土壌でも雲母が土壌に含まれる場合は、セシウムを極めて強固に固定します。(雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくい。)また、日本の土壌であっても、層間に水酸化アルミニウムのポリマーが入りこむ場合は、セシウムを吸着する能力を失います<ref>Nakao A, Funakawa S, Kosaki T (2009) Hydroxy-Al polymers block the frayed edge sites of illitic minerals in acid soils: studies in southwestern Japan at various weathering stages ''European Journal of Soil Science'' 60, 127-138</ref>。
 +
 
 +
スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています<ref name="shenber">Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" ''Science of The Total Environment'' 113(3), 287-295 PMID 1325669</ref>。これはセシウムが土壌に吸着されず、いつまでも植物体が利用しやすい形で残っているためと思われます。
 +
 
 +
===セシウムを選択的に吸着する能力が重要===
 +
 
 +
セシウムの吸着材としてゼオライトが注目されていますが、ゼオライトは様々な金属イオンを吸着する能力を持ちます。汚染土壌といってもカルシウム、カリウム、アンモニア、マグネシウムなどの金属はセシウムよりも高濃度に存在するため、この中からセシウムを選択的に吸着する能力に注目しなくてはなりません。スウェーデンの土壌(泥炭質)にゼオライトを混ぜた場合、もともと金属イオンを吸着する成分が無いところに吸着材を導入するために、植物によるセシウム吸収を抑えられます<ref name="shenber"/>。
 +
 
 +
しかし日本の土壌のようにセシウムを強固に吸着する素地がある場合、様々な金属イオンを吸着できるゼオライトをわざわざ購入して追加するメリットについては検討が必要です。ゼオライト(例えばクリノプチロライト)を有効量使うにはヘクタールあたりトン単位で投入しなくてはなりません<ref>おそらくヘクタールあたり数十万円以上かかります。これまでゼオライトのセシウム吸着能が大きく報道されていますが、殆どがセシウムが主成分となる水溶液にゼオライトを大量にいれるなど、現実的ではない実験条件下での値なので注意が必要です。</ref>。有効性が確かめられてから試すべきでしょう。
 +
 
 +
===福島の土壌にゼオライトは効きそうにない===
 +
 
 +
福島県の代表的土壌は、花崗岩質、灰色低地および黒ボクです。(自分の住む地域の土壌を知りたい方は、農業環境技術研究所の[http://agrimesh.dc.affrc.go.jp/soil_db/howto.phtml 土壌情報閲覧システム]で調べることができます。おおまかな様子はジオテック株式会社の[http://www.jiban.co.jp/tips/kihon/ground/prefecture/fukushima.htm 福島県の地形・地盤]にも記述があります。)
 +
このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています<ref name="komarneni"/>。
 +
 
 +
こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは塩化アンモニウム等で溶出しやすくなります。もともと土壌に含まれる雲母により固定してもらうほうが、セシウムを固定する目的にかなうことが報告されています<ref>Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" ''J Environ Quality'' 30(4) 1206-1213 ([https://www.agronomy.org/publications/jeq/articles/30/4/1206 PDF])</ref>。
  
<s>
 
;テンサイ(砂糖大根)は有効か
 
以下は論文等の根拠が少ない憶測になります。東大および理研の研究者と相談して出たアイデアですが、テンサイ(サトウダイコン)を栽培するのが良いかもしれません。</s>
 
テンサイは畦幅約70cm株間隔25cmらしく、土壌をまんべんなく浄化するのは難しそうです。訂正させていただきます。
 
  
 
;参考
 
;参考
 
<references/>
 
<references/>

Latest revision as of 02:02, 2 December 2011

もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents

[edit] 土壌汚染

まとめ
  • まずは文部科学省による埼玉県及び千葉県の航空機モニタリングの測定結果 をご覧ください(2011年9月29日)
  • 福島県内の高濃度汚染地域と同レベルに汚染された地域は、栃木県や群馬県内にも存在します
  • チェルノブイリ事故において土壌が「汚染」されたとする指標は
1m2あたり 37000 Bq (37kベクレル)、おおよそ 1850 ∼ 493 Bq / kg 土壌
です。3万7千ベクレルという値は、1km2あたり 1 Ci (キュリー) に同値です。
  • チェルノブイリ近辺では、上記の汚染地域には立ち入り禁止になっています (長期的に住むことは健康被害の可能性が高い)
  • 群馬県、栃木県、福島県では、上記の汚染基準よりも高い放射線量が観測されています[1]
    • これらの汚染地域からは、(いますぐではなくても)人と家畜を他所に移す、土壌改良等によりセシウム量を減らす措置を早急に取るべき[2][3]、そして
    • これらの地域における農畜産業については、セシウム被害を広げないために緊急に対策が必要です
    • 通常の農産物にはほぼ影響ありませんが(移行係数を参考)、一部の野菜・キノコ類は栽培を避ける、放牧にも気を付けることが重要です

[edit] 土は有機物と無機物からできている

土には岩石由来の無機物(大きく分けて砂と粘土)と、生物由来の有機物が含まれます。植物は根によってミネラル等の栄養素を無機物からも有機物からも吸収します。例えば種々の金属イオンに加え、有機酸、アミノ酸、糖などを根から吸収します。

植物を用いて土壌中の重金属等を選択的に蓄積、除去する手法をファイトレメディエーションといいます。セシウムは植物にとって不要の元素ですが、カリウムと誤って取り込まれることが知られています。しかし、カリウムが十分にある状態ではセシウムを吸収しにくくなることも知られています(ファイトレメディエーションの項を参照)。 土壌がセシウムを強固に吸着するとファイトレメディエーションを難しくしますが、逆に農作物にもセシウムが含まれにくくなります。土壌の性質をよく理解することは汚染地域の浄化や農業においてたいへん重要です。

[edit] 汚染の程度

3月20日の報道によると、原発から北西に約40kmの福島県飯舘村で163000 Bq/kg 土壌の、Cs-137による汚染が見つかっています。この、kg土壌あたりのベクレル値に対し、国連やチェルノブイリ関係の資料では、通常1m2あたりのベクレル値が使われます。換算の目安として、同じ朝日新聞記事に、京都大原子炉実験所の今中哲二助教(原子力工学)の換算で1m2あたり3,260,000 Bq[4]、金沢大の山本政儀教授(環境放射能学)の換算(1m2×5cm, 土壌密度1.5程度と仮定)でセシウム濃度約12,000,000 Bqという算定があります[5]。山本教授の値は今中助教の値よりもずっと大きく、またセシウムがすぐに土壌 5cm に浸透することは考えにくいのですが (ファイトレメディエーションのページを参考にしてください)、1m2あたりのベクレル数を求めるのにkgあたりのベクレル数を20∼75倍する換算法は下限値および上限値の見積もりとして妥当と思われます。

飯舘村の汚染度について4月6日の時点では、水田でおよそ15000 Bq/kg が計測されています。これは長期的に居住するには適切でない、大変高い値です。


[edit] 稲わらから推測される土壌汚染

7月に入って次々報道される稲わらの汚染状況は、上記の土壌汚染よりもずっと高い値を示しています。(7月26日産経新聞によると栃木県那須塩原市で10万6千ベクレル、茨城県高萩市で6万4千ベクレルなど)これは、原子力発電所から離れたところでもスポット的に高濃度のセシウムが存在していることを示唆しています(周囲の土壌は稲わらと同程度に汚染されているはずです)。

こうしたデータをより詳細にとることは大変重要です。稲わらを食べる牛だけでなく、稲わらを集めた地域に住んでいる人が放射線の危険にさらされているからです。

参考情報
  1. 福島県における放射性物質の測定結果
  2. 旧ソ連では事故がおきた翌月1987年5月には30km圏内にいた5万の牛, 1万3千の豚, 3300の羊, 700の馬を移住させています。同時に2万の家畜や犬猫が埋められました。しかし、移動した家畜を安定して飼うこともできず、その後7月までに移住させた家畜も含み95500の牛, 23000の豚が埋められました。(Nadtochiy P, Malinovskiy A, Mogar AO, Lazarev N, Kashparov V, Melnik A. Experience of liquidation of the Chernobyl accident consequences. Kiev: Svit; 2003)
  3. IAEA. International Atomic Energy Agency. Environmental consequences of the Chernobyl accident and their remediation: twenty years of experience. Report of the UN Chernobyl Forum Expert Group “Environment” (EGE). Vienna, IAEA; 2006
  4. これはkgあたりのベクレル数を20倍して1m2あたりにしています
  5. これはkgあたりのベクレル数を73.6倍して1m2あたりにしています


[edit] 土壌汚染を防ぐには

表土を入れ替えるという措置は、コストが非常に高いため農地にはおこなえないという報告[1]があります。表土をどこに廃棄するかも問題になります。産業廃棄物の業者を手配して安全な廃棄場所を確保する必要性や、ウクライナにおいてさえ徹底して表土を入れ替える措置がわずか 1000 ha 程度にしか施されていないことを考えると、日本において今回汚染された土壌のほとんどは現状のまま利用するしかありません。また、ファイトレメディエーションは放射性セシウムに対して有効ではありません。この状況を考えると、

土壌からセシウムをいかに取り除くかを考えるよりも、土壌中のセシウムをいかに農畜産物に混入させないかを考えるべきでしょう。

[edit] セシウムを吸収させない手段

  • 表土の入れ替え (skim and burial ploughing)
表土5cm部分を中間部分はそのままに地下45cm に移します。単に耕すことで植物に取り込まれる放射性元素は1/2に減りますが、この入れ替え手法で1/15-1/20に減らせるとあります [2]。セシウムが雨などにより土壌に浸透していく速さは年間わずか1cmほどなので、地下水に入り込む心配をする必要はありません。
  • 土を中性に保つ
セシウムやストロンチウムは酸性土壌で植物に吸収されやすくなるので、石灰を撒くなどして中性にします[3] 1 haあたり2-10トンの消石灰を施すと、植物に取り込まれる放射性元素が2/3から1/3に減少します。
  • ミネラル性の肥料を施す
セシウムはカリウムの代わりとして取り込まれるため、Cs:K 比をできるだけK側に偏らせることが重要です。植物がセシウムをとりこまないための最適の肥料成分は N:P:K = 1:1.5:2 という比率です[4] チェルノブイリ近隣国で利用しているカリウム肥料の平均量は60 kg/ha K2Oで、肥料が足りない時には農作物中におけるセシウム量が増加しました。

アンモニウムイオンがセシウムイオンを追い出すため、硝酸アンモニウム肥料により芝草 (ryegrass) のセシウム吸収が一時促進するという報告もありますが、研究があまり進んでおらずアンモニア肥料とセシウムの関係は良くわかっていません(ファイトレメディエーションの項も参考に)[5]。チェルノブイリにおける経験からは、NPK肥料と特にカリウムを多くすることでセシウム量を大幅に減らせているので、窒素肥料を施さない理由は無いと思われます。[6]

  • 大幅な土壌改良をほどこす
チェルノブイリ周辺国でとりわけ汚染が激しい部分は、生えている植物をすべて取り除き、耕してから、石灰と施肥、再度撒種するという大幅な土壌改良もおこなわれました(特にウクライナでは800ヘクタールに及ぶ)。この手法は、肥沃な部分が浅い土壌(耕すとその層が失われてしまう)や傾斜地、川沿いには適用できませんが(侵食や土砂崩れの可能性があるため)、土地の種類によって1/2から1/15にまで植物のセシウム吸収量を抑えることができています。
  • セシウムをよく吸収する(可能性のある)作物は植えない
セシウムの吸収率は植物によって大幅に異なります。吸収率が高いとされているアカザ科、ヒユ科[7]の作物は植えないようにします。植えるべきではない作物名はたとえば、ホウレンソウ、カラシナ、ホウキグサ(ニワクサ)、オカヒジキ、アマランサス、フダンソウ、ビートです。 また、きのこ類も一般に重金属を多く蓄積するので、きのこは栽培しないほうがよいでしょう。サトウダイコン(ビート)はヒユ科ですが、砂糖を取るために栽培するのであれば、精製時にセシウムが排除されるので栽培して問題ありません。
  • 菜種、菜の花を植える
ベラルーシでは、セシウムとストロンチウムの吸収量が少ない菜種 (rape seed)の耕作地を22000ヘクタールに増やしました。菜種は油が採れる上に家畜の飼料になり、広範囲におよぶ汚染地域の場合、有効な利用法になります。(菜種油にすることでセシウム量は0.004倍に減ります。)植物によるセシウムの吸収を抑えるために、ヘクタールあたり6トンの石灰と肥料を施します。

[edit] セシウムを吸収させる手段

飯館村のように退去勧告が出された地域は、耕作も放棄しなくてはなりません。こうした放棄地や耕作地以外では、セシウムを積極的に回収する方法が有効かもしれません。

いずれも回収した土や植物体からどうやってセシウムを抽出するかが問題ですが、汚染された面積から考えると立ち入り禁止区域を設けてそこに廃棄していくのが一番現実的だと思います。またこうした場所に植える植物には手間をかけることが出来ませんから、農作物よりは雑草のような植物が適していると思われます。可能性のある植物についてはファイトレメディエーションをご覧ください。

[edit] ゼオライトは有効でない

原発事故の汚染水を浄化するのにゼオライトが用いられて脚光を浴びていますが、ゼオライトを土壌に混ぜると放射性セシウムやストロンチウムの植物による吸収量が下がることも報告されています[8]。しかし、福島の土壌ではゼオライトはそれほど有効では無さそうです。

[edit] セシウム吸着の程度は土壌によって異なる

まとめ
  • 雲母類を含む土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
  • バーミキュライトやスメクタイト(いずれも膨張性の2:1型層状ケイ酸塩鉱物)を含む土壌では、層と層の間にある負電荷にセシウムが強固に吸着される
  • 粘土鉱物を含まない土壌(砂地、泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
  • 日本の土壌はセシウムを固定しやすい


土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます[9]。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイトなど)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイトなど)に分けられます。

最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。

土壌における粘土鉱物の種類
総称 代表的名称 性質 層比 X線回折のピーク
1:1型粘土鉱物 カオリナイト (kaolinite)、ディッカイト (dickite) など 様々な構造をとりうるが、層荷電を持たないためセシウムの吸着力は小さい 1:1 0.7 nm
雲母類 雲母 (mica) 、イライト (illite) 層の間にカリウムなど金属イオンを強固に吸着。末端破壊部(FES)は、とりわけセシウムを強固に吸着[10] 2:1 1.0 nm
膨張性の2:1型粘土鉱物 バーミキュライト (vermiculite) 、スメクタイト (smectite) など 四面体層に由来する荷電が多いほどセシウムを強固に吸着 2:1 1.4 nm[11]
その他の2:1型粘土鉱物 クロライト (chlorite)、滑石 (talc) など 膨張性を持たない 2:1 1.4 nm

日本の土壌環境では化学風化が進みやすいため、母岩(土壌のもととなる岩)に元々含まれる雲母(イライト)の一部が風化してバーミキュライトやスメクタイトに変化しています。こうしたスメクタイトなどの層間は負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します[12]

セシウムを固定する能力はスメクタイト土壌により異なります。日本のスメクタイト土壌は表面荷電が四面体層に由来し、セシウム吸着後に雲母型の構造を取って、他の陽イオンでは極めて置換されにくくなります。つまりセシウムを選択的に固定します。これに対して、チェルノブイリ事故があったウクライナのスメクタイト土壌は表面荷電が八面体層に由来すると推測され、セシウムに対して強い選択性を示さず、いったん吸着されたセシウムも他種の陽イオンによって置換されやすくなります[12][13]。ただし、ウクライナの土壌でも雲母が土壌に含まれる場合は、セシウムを極めて強固に固定します。(雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくい。)また、日本の土壌であっても、層間に水酸化アルミニウムのポリマーが入りこむ場合は、セシウムを吸着する能力を失います[14]

スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています[15]。これはセシウムが土壌に吸着されず、いつまでも植物体が利用しやすい形で残っているためと思われます。

[edit] セシウムを選択的に吸着する能力が重要

セシウムの吸着材としてゼオライトが注目されていますが、ゼオライトは様々な金属イオンを吸着する能力を持ちます。汚染土壌といってもカルシウム、カリウム、アンモニア、マグネシウムなどの金属はセシウムよりも高濃度に存在するため、この中からセシウムを選択的に吸着する能力に注目しなくてはなりません。スウェーデンの土壌(泥炭質)にゼオライトを混ぜた場合、もともと金属イオンを吸着する成分が無いところに吸着材を導入するために、植物によるセシウム吸収を抑えられます[15]

しかし日本の土壌のようにセシウムを強固に吸着する素地がある場合、様々な金属イオンを吸着できるゼオライトをわざわざ購入して追加するメリットについては検討が必要です。ゼオライト(例えばクリノプチロライト)を有効量使うにはヘクタールあたりトン単位で投入しなくてはなりません[16]。有効性が確かめられてから試すべきでしょう。

[edit] 福島の土壌にゼオライトは効きそうにない

福島県の代表的土壌は、花崗岩質、灰色低地および黒ボクです。(自分の住む地域の土壌を知りたい方は、農業環境技術研究所の土壌情報閲覧システムで調べることができます。おおまかな様子はジオテック株式会社の福島県の地形・地盤にも記述があります。) このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています[10]

こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは塩化アンモニウム等で溶出しやすくなります。もともと土壌に含まれる雲母により固定してもらうほうが、セシウムを固定する目的にかなうことが報告されています[17]


参考
  1. Jacob P, Fesenko S, Firsakova SK, Likhtarev IA, Schotola C, Alexakhin RM, et al (2001) Remediation strategies for rural territories contaminated by the Chernobyl accident. J. Environ Radioact 56:51–76
  2. J. Roed, K. G. Andersson and H. Prip (1996) The skim and burial plough: A new implement for reclamation of radioactively contaminated land J Environ Radioactivity 33(2):117-128 journal PDF
  3. Alexakhin RM. (1993) Countermeasures in agricultural production as an effective means of mitigating the radiological consequences of the Chernobyl accident. Sci Total Environ 137:9–20
  4. RIARAE (1991) Russian Institute of Agricultural Radiology and Agroecology. In: Alexakhin RM, editor. Recommendations. Guide on agriculture administrating in areas subjected to contamination as a result of the accident at the Chernobyl NPP for 1991–1995. Moscow: State Commission of the USSR on food and purchases
  5. J. Lembrechts (1993) A review of literature on the effectiveness of chemical amendments in reducing the soil-to-plant transfer of radiostrontium and radiocaesium The Science of The Total Environment 137(1):81-98 a journal PDF
  6. 代表的な化学肥料である硫安、硝安、などの安とはアンモニアを意味し、尿素も土壌中ですみやかに炭酸アンモニウムに変化します。窒素分は有機肥料に含まれるアミノ酸等でも賄えますが、有機分が多い土壌ではおおむねセシウムの吸収が促進されています。
  7. 最新の植物分類体系APG-IIでは、アカザ科はヒユ科に含まれます。ヒユ科の植物であるカラシ菜は土壌中の重金属を回収するために用いられる代表的植物です。学名で言うとAmaranthus属の植物が、多くのファイトレメディエーション研究で用いられています。
  8. 英文の簡単な総説 Mumpton FA (1999) "La roca magica: Uses of natural zeolites in agriculture and industry" Proc Natl Acad Sci U S A 96(7):3463-3470 に多くの文献が引用されています。ゼオライトがチェルノブイリやスリーマイル事故でも用いられたことは多くのウェブサイトでも報じられています。とりわけクリノプチロライト (clinoptilolite) と呼ばれる天然ゼオライトのカチオン吸着度は

    Cs > Rb > K > NH4 > Ba > Sr > Na > Ca > Fe > Al > Mg > Li

    となっているため、セシウムのような大きなカチオンには有効とされています。(通常はアンモニアNH4を吸着させるために用いられます。)

  9. ウィキペディア英語版 Clay minerals
  10. 10.0 10.1 Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" Science 239(4845), 1286-128 PMID 17833215
  11. バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。
  12. 12.0 12.1 舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 (英語全文)
  13. 粘土鉱物の分類およびセシウムに対するスメクタイト成分の詳しい解説は、京都大学 大学院農学研究科 舟川晋也先生、環境科学技術研究所 環境動態研究部 中尾淳先生に丁寧に教えて戴きました。ありがとうございます。
  14. Nakao A, Funakawa S, Kosaki T (2009) Hydroxy-Al polymers block the frayed edge sites of illitic minerals in acid soils: studies in southwestern Japan at various weathering stages European Journal of Soil Science 60, 127-138
  15. 15.0 15.1 Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" Science of The Total Environment 113(3), 287-295 PMID 1325669
  16. おそらくヘクタールあたり数十万円以上かかります。これまでゼオライトのセシウム吸着能が大きく報道されていますが、殆どがセシウムが主成分となる水溶液にゼオライトを大量にいれるなど、現実的ではない実験条件下での値なので注意が必要です。
  17. Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" J Environ Quality 30(4) 1206-1213 (PDF)
Personal tools
Namespaces

Variants
Actions
Navigation
metabolites
Toolbox