Doc:Radiation/Natural
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Revision as of 10:22, 5 July 2011
もくじ | 基礎知識 | 自然放射線 | 人体への影響 | 胎児と子供 | ファイトレメディエーション | 土壌汚染 | 移行係数 | 食品汚染 | 家畜汚染 | Q&A とリンク |
文責: 有田正規 (東大・理・生物化学) 質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで
最近はお茶から出る放射線で一騒動ありました。お茶の飲料メーカー各社が「消費者を安全させることが重要」(6月4日朝日新聞報道)として独自の安全確認をするとしていますが、その方法や基準等も明らかにされていません。報道では米国製の放射線測定器を輸入とありますが、ガイガーカウンターでは元素の特定はできません。
ここでは、自然界にある放射線の情報をすこしまとめます。ベクレルは Bq と記述します。
- まとめ
- 天然には放射性のカリウム40が存在し、これによる放射線は避けられない
- カリウム40だけで、パセリは 300 Bq / kg, お茶(乾燥茶葉)は 700 Bq / kg, 乾燥コンブや乾燥ワカメは 1500 Bq / kg の放射線を出す。
- カリウム40の実効線量 (ベクレル → シーベルトへの換算値) はセシウムのおよそ半分。
(例えば セシウムが 800 Bq / kg 混入した茶葉を 20 g 粉にして食べる際の実効線量 (シーベルト数) は汚染されていない焼き芋 200 g を食べる場合と同じ。)
- 日本国内でも自然放射線量は地域によって異なる
- 放射線測定器(ガイガーカウンター)だけでは、セシウムの放射線か天然カリウムの放射線かは区別できない
- 放射線の検査では、何をどう測定したかを明らかにして判断することが重要
Contents[hide] |
自然放射線
放射性物質は天然にも存在し、人体にはほぼ一定の自然放射性物質が溜まっています。 例えば、カリウム 1 g から必ず 30.4 ベクレルの放射線が出ています。 70 kg の成人男子は体中に 140 g のカリウムを含みます(元素の項を参照)。 カリウム40は核実験等に関係なく人類が共存してきた放射性核種です。
元素 | 存在比 (%) | 成人男子の (70kg) 体内量 | 解説 |
---|---|---|---|
カリウム40 | 0.0117 | 4260 Bq (61 Bq / kg) | 140 × 30.4 = だいたい 4260 Bq |
炭素14 | ほぼ0 | 3680 Bq (53 Bq / kg) | 同位体の存在比は 10-8 程度と大変少なく炭素 1 g あたり 0.23 Bq 程度[1]。 0.23 × 16000 = 3680 Bq |
ルビジウム87 | 27.83 | 500 Bq? (8 Bq / kg) | 同位体存在比は高いが、非常に低濃度しか存在しない。 |
また空気には大地から染み出すラドンが含まれており、40 Bq / m3 程度あるようです[2]。 これら天然の放射性物質のため、カリウムを豊富に含む食品から自然に放射線が出ています。
食品 | カリウム量 (g / kg) | ベクレル (Bq / kg) |
---|---|---|
パセリ | 10 | 300 |
ひきわり納豆 | 7 | 210 |
ホウレンソウ | 6.9 | 200 |
カツオ、タイなど | 4 ∼ 5 | 120 ∼ 150 |
コンブやワカメ(乾燥) | 52 ∼ 53 | 1560 ∼ 1590 |
この他の食品については、栄養成分表のカリウム量 をみて 1 g あたり 30.4 Bq をかければ放射線量が割り出せます。また、カリウム40のベクレル→シーベルトへの換算係数はセシウムの半分ほどあります。乾燥茶葉が 500 Bq / kg を超えたときに、お茶の粉末を食べる人もいるから危険である等の議論がなされていますが、乾燥茶葉として摂取する量はグラム単位です。同じベクレル数は、フリカケ中の乾燥ワカメや、魚の切り身でも摂取しているのです。
毎日のカリウム摂取による内部被曝量
ヒトのカリウム摂取目安量は一日当たり 2 g ですが、通常の食事でこれを下回るのは困難です。 腎臓透析を受ける人は 2 g 以下になるように食事制限を受けますが、基本的に生野菜等は食べられません。 一日あたり 3 g 摂取しているとして計算すると年間で
3 × 30.4 × 365 × 0.6 × 10-6 = 0.21 mSv
になります。このほか炭素14等による内部被曝もあるので、食べ物から年間 0.35 mSv の被曝をうけています[3]。
ただし、人より2倍のカリウムを摂取しているからといって常に2倍の放射線を浴びているわけではありません。摂取したカリウム40は排出もされるからです。
地域によって違う自然放射線 (大阪は東京の倍)
日本地質学会のウェブサイトでは、国内各所の自然放射線量 を公開しています。 このマップによると、大阪は地上1mにおける自然放射線が年間 0.9 mSv、名古屋で 0.5 mSv、東京は 0.4 mSv 程度であることがわかります。つまり東京と大阪で年間 0.5 mSv 違います。 サイトにある時間あたりのシーベルト(グレイ)を年間あたりに換算するには以下の式を使います。
大阪 0.1 (μSv) × 24 (hour) × 365 (days) / 1000 = 0.876 mSv
東京 0.04 (μSv) × 24 (hour) × 365 (days) / 1000 = 0.350 mSv
大阪と東京の差はセシウムの摂取基準値である 500 Bq / kg の食品を毎日 200 g 食べている量に相当します。 (ただしこれは外部被曝と内部被曝をシーベルト数だけで比較しており、実際の影響は、内部被曝のほうが大きい点に注意してください。)
500 (Bq) × 0.2 (kg) × 365 (days) × 1.5 × 10-5 (セシウムの換算係数) = 0.547 mSv
関西に住んでいるから放射線被害は関係ないと思う人も多いかもしれませんが、自然放射線は関西の方が多いのです。逆の言い方をすれば、お茶や野菜のベクレル数の議論は、日本国内の地域差程度のことが多いのです。世界には自然放射線が高い地域もあります。たとえばイタリアのローマは大阪の倍以上あります。自然放射線やセシウムの換算係数については放射線の項を参照してください。
食品における放射線の基準
日本の基準は緩い等の報道・意見が多いですが、食品における基準だけをみるとそうでもありません。
日本
以下の値は NHK科学文化部がまとめたブログから引用しました。 ヨウ素とセシウムでそれぞれ基準が定められています。飲料水と乳製品は両者を合計するとよく言われる 1kg あたり 500 Bq という値になります。
- 放射性ストロンチウム
この値は国内で見当たりませんが次に書くヨーロッパが日本基準に合わせたとする規制値に記されています。
- 幼児食 75 Bq/kg or Bq/l
- 乳製品 125 Bq/kg or Bq/l
- それ以外の食品 750 Bq/kg or Bq/l
- 飲料 125 Bq/l
- 放射性ヨウ素
- 1歳未満の乳児が飲む水道水 100 Bq / kg
- 牛乳 100 Bq / kg
- 乳製品 300 Bq / l
- 野菜(イモや根菜を除く)、肉、魚介類など 2000 Bq / kg
- 飲料水 300 Bq / l
- 放射性セシウム
- 乳製品 200 Bq / l
- 野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品 500 Bq / kg
- 飲料水 200 Bq / l
原発事故より前は、日本の輸入規制値は放射性セシウムについて 370 Bq / kg でした[4]。上の値はそれより少し上昇したことになります。放射性ヨウ素は半減期が8日と短い点に注意してください。
ヨーロッパ
基本はEuratom Guidelineによります。ただし、日本から輸入される食品に関しては、より厳しい日本のレベルにあわせることが2011年4月11日に決められ、今後も見直しを続けます。6月18日、フランスが 500 Bq/kg を超えた静岡産の茶葉を輸入拒否しましたが、以下の基準でわかるように、もしもこの茶葉が日本以外から輸入されていたらフランスで流通しているはずです。日本からの輸入品だけ規制が厳しく、そのために輸入拒否されています。
- 放射性ヨウ素
- 幼児食 150 Bq/kg or (Bq/l)
- 乳製品 500 Bq/kg or Bq/l
- それ以外の食品 2,000 Bq/kg or Bq/l
- スパイスなど少量使う食品 20,000 Bq/kg
- 飲料 500 Bq/l
- 10日以上残る放射性物質(放射性セシウムを含む)
- 幼児食 400 Bq/kg or Bq/l
- 乳製品 1,000 Bq/kg or Bq/l
- それ以外の食品 1,250 Bq/kg or Bq/l
- スパイスなど少量使う食品 12,500 Bq/kg
- 飲料 1,000 Bq/l
ヨーロッパの基準が緩いのは、チェルノブイリ事故によって多くの食品が汚染され、緩めないと仕方がないという状況を反映しています。
Codex Alimentarius Commission
この組織は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって作られ、「輸入食品」の規格、基準を定めています。放射性物質を含む毒物の基準(PDF)は以下になります。
- 放射性ヨウ素
- 幼児食 100 Bq / kg
- その他 100 Bq / kg
- 放射性セシウム
- 幼児食 1,000 Bq / kg
- その他 1,000 Bq / kg
詳しくはCodexの中身を見てもらいたいのですが、ヨウ素の基準は 口にする全食品(飲料含む)の 1 割が放射性ヨウ素やセシウムで汚染されているとして年間被曝量が 1 mSv に届かないように設定されています。計算方法は放射線の項を参照してください。大雑把には以下になります。
- 例
- 一日 350g ずつ 2,000 Bq / kg の野菜を 1 年間食べる ... 5.62 mSv (放射線の項参照)
- 一日 350g ずつ 100 Bq / kg の食品を 1 年間食べる ... 0.281 mSv (上の値を 1/20 する。 350 g を食品の 1 割と考える。)
つまり 100 Bq / kg という値は、1 mSv に達しないようにする安全基準です。 1 割という係数を用いるのはこれが「輸入食品」のガイドラインだからです[5]。またセシウムの量が 1000 Bq / kg になっているのは、ベクレル数 (Bq) をシーベルト (Sv) に換算する係数がヨウ素よりも小さいためです[6]。
その他
香港中文大学のKwan Hoi Shanが香港の食物安全中心(Center for Food Safety)の資料を元に作成したスライドからの抜粋です。基準の出所は食物安全中心としかわかりません。このスライドは日本からの輸入食品の危険性を強調する内容になっており注意が必要です。(アジア諸国の受けとめ方をよく反映していると思います。)
国 | 放射性ヨウ素 | 放射性セシウム |
---|---|---|
Codex |
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日本 |
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米国 |
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カナダ |
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中国本土 |
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台湾 |
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シンガポール | Codex に準拠 (シンガポールは食品のほぼ全てを、水さえも、輸入に頼っていることに注意) |
食品における放射線
厚生労働省が発表する野菜等のベクレル数は、セシウムやヨウ素毎に値が出ています[7]。 これらの値を大規模・継続的に計測・算出するのは大変な作業で、企業等が簡単に導入・実施できることではないと思います。
お茶
乾燥茶葉に関していうと、以下の内容にたいして、基準をどう設定すべきかという問題になります。(6/13までこの表に玉露の値としてカリウム 3.4 g という誤った値を書いていました、申し訳ありません。)カリウム量は文部科学省の 五訂増補日本食品標準成分表 によりました。
食品 | カリウム量 (g / kg) |
カリウムの放射線 (Bq / kg) |
セシウムによる放射線との比較 |
---|---|---|---|
抹茶(乾燥) | 27 | 821 | どのお茶も一律にセシウム量が 500 Bq/kg を超えると出荷停止になるのだと思いますが、玉露や抹茶など、お茶は軒並み、カリウムによるベクレル数がすでに 500 Bq /kg を超えています。抹茶や玉露はかぶせ茶といい、日除けをして栽培した茶葉のため、カリウム量が煎茶よりやや多いと思われます。
浸出茶のカリウム量は 300 mg /l 程度です。 1.5 リットル飲んで 0.5 g のカリウムを含み、15.2 ベクレルです。 |
日本茶(玉露) | 28 | 851 | |
日本茶(煎茶) | 22 | 669 | |
インスタントコーヒー(粉) | 36 | 1094 | 1杯につき粉 3 g 使うとすると、カリウム108 mg を含み 3.28 ベクレルになります。 |
抹茶は和菓子にも使いますが、もともと 800 Bq / kg 以上あります。品種や産地、栽培法による違いもあると思われます。(ただし、カリウムの実効線量係数はセシウムの半分、つまり同じベクレル数でもシーベルト数はおおよそ半分です。) 例えば自主的に放射線検査をおこなうとプレスリリース企業がガイガーカウンターで計測した場合、セシウム由来のベクレル数をどう判断するのでしょうか。 また、通常のベクレル数に 500 Bq 上乗せされたら出荷停止という基準なのであれば、通常値は何ベクレルとするのでしょうか。今はそうした議論が欠けているように思います。
- 例
セシウムが 800 Bq / kg 混入した茶葉を 20 g 粉にして食べる際のセシウムによる実効線量 (シーベルト数) は、だいたいカリウム 1 g ぶん (例えばトマトジュース 400 ml、焼き芋 200 g、アボカド 1 個分) に相当します。
- 茶葉 20g : 800 × (20 / 1000) × 1.3 × 10-5 = 20.8 × 10-5 mSv
- カリウム 1g : 30.4 × 0.62 × 10-5 = 18.84 × 10-5 mSv
同じく、荒茶で放射性セシウムが 4000 Bq / kg あったとしても、 4 g を粉にして全部食べる際の実効線量はカリウム 1 g ぶんと同じです。お茶をミルで挽いて粉茶にする人もいるとおもいますが、そうした粉によるお茶 1 杯の目安量は 1 g になっています。線量が 4000 Bq / kg あるお茶を 4 杯分飲んで被曝するシーベルト数は焼き芋 1 本と同じです。
飲むお茶(浸出液)のカリウム量は、上記の五訂増補日本食品標準成分表によると、玉露で 0.34 g/100 ml, 煎茶で 0.027 g/100 ml になります。浸出法や測定方法は成分表に載っているのでご覧ください。
- 参考文献
- ↑ 原子力資料情報室炭素14の項より
- ↑ 原子力資料情報室ラドンの項より
- ↑ この値は原子力教育支援サイトより。
- ↑ 輸入規制値は今でもそうなのかもしれません。知っている人がいたら教えてください。
- ↑ 間違えていたらどなたか教えてください
- ↑ 実際には、ヨウ素とセシウムでは換算係数は2倍程度しか違いません。正確には、 1000 Bq / kg は緩く、100 Bq / kg はきついと思います。ただ放射性ヨウ素は原発事故直後に牛乳に濃縮されること、摂取したヨウ素が甲状腺に蓄積することを考慮した判断だと推測します。また原発事故の場合、半減期が 8 日である放射性ヨウ素を 1 年間食べ続けるという仮定は非現実的です。しかし再処理工場から継続的に排出される放射性ヨウ素による汚染等を考える場合 (例えば六ヶ所村の再処理工場からの排水には多くの放射性物質が含まれます。ウィキペディアの記事を参照)、こうした仮定は成立します。
- ↑ 厚生労働省が発表するデータはここからたどれますが、月毎にしか閲覧できません(見づらい)。食品関係の放射線値は産業技術総合研究所 安全科学研究部門 河尻 耕太郎さん のサイトにまとめられています。