Doc:Radiation/Phytoremediation

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もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents

ファイトレメディエーション

植物を利用して土壌中の汚染物質を除去する手法をファイト(植物による)レメディエーション(修復)と呼びます。主に土壌中の重金属や農薬、石油等を対象にしますが、放射性物質を対象にしたファイトレメディエーションもあります[1]。大きく分けて二つの手法があります[2]

  • ファイトエクストラクション ... 成長が早く重金属等を蓄積しやすい植物を植えて、土壌から汚染物質を除く
  • リゾフィルトレーション ... 同様の植物を用いて、水中の金属イオン等を水耕栽培により除く
まとめ
  • 植物によって蓄積できる金属の量は大きく異なる (陸上植物葉の元素濃度一覧)
  • ヒマワリは、低濃度の汚染水から放射性物質を吸収するのに大変優れている
  • 土壌中のセシウムを、植物を使って除染することは難しい(ヒマワリを含む)[3]
    • 土壌中のミネラルと結合したセシウムを水溶させるステップが鍵
    • セシウムはカリウムの代わりとして取り込まれるため、肥沃な土地ほど除染は困難
    • 除染が早いほど効率は良い
    • 除染にはカラシ菜やヒマワリを使えるが、更なる検討が必要


参考文献
  1. Dushenkov S (2003) Trends in Phytoremediation of radionuclides Plant and Soil 249:167-175
  2. Dushenkov S, Kapulnik Y, Blaylock M, Sorochisky B, Raskin I, Ensley B (1997) "Phytoremediation: a novel approach to and old problem" In Global Environ Biotechnol (D.L. Wise Ed.) 563-572
  3. 日本土壌肥料学会によるセシウムの作物(特に水稲)系での動きに関する基礎的知見も参考にしてください。

ファイトエクストラクション

鉛 Pb の場合

一般に鉛は植物が吸収できる形で土壌中に存在せず、pH 5.5-7.5 では Pb2+ は 10-8.5 M または 0.6 μg l-1 程度しか植物は利用できません。金属が溶出しやすいように土壌をEDTA (ethylene-dinitrilo-tetra-acetic acid)等で酸性にする必要があります。例えばカラシ菜(Indian mustard)の場合、EDTA等を土壌に加えないで5週間ほど草丈を大きくし、その後EDTAを添加して土壌を酸性にしてから1週間ほど吸収させることで、植物体の乾燥重量にして1%程度の鉛を蓄積できます。

用いられる植物
植物 蓄積量 説明
Thlaspi rotundifolium (L.) Graud.-Beaup 新芽に 8200 μg/g の鉛を蓄積[1] イタリア北部の鉱山に自生する多年草。観賞用にもなる。草丈が 10cm と小さいために実用化は難しい
Brassica juncea (L.) Czern. (からし菜 Indian mustard) コントロールされた温室条件下では地上部の2% 旺盛に成長するため応用が進んでいる


参考文献
  1. Reeves RD, Brooks RR 1983 "Hyperaccumulation of lead and zinc by two metallophytes from mining areas in Central Europe" Environ Pollut Ser A 31:277-285

セシウム Cs の場合

利用可能な植物(しかし効率は悪い)

セシウム-137の回収を難しくするのは、その不溶性 (< 0.3% が水溶性) です。有機酸や界面活性剤を土壌に混ぜても溶出せず、5 M の硝酸を過剰に加えると、ようやく 20.7% を回収できる程度です[1]

ヒマワリでもセシウムの除染は難しい

このため植物にとっても、土壌からセシウム-137を回収するのは困難です。10種の植物(Amaranthus bicolor, A. caudatus, A. cruentus, A. hybridus, A. retroflexus; Brassica juncea or Indian mustard, Zea mays or corn, Pisum sativum or peas, Helianthus tuberosus or Jerusalem artichoke, Helianthus annuus or sunflower) で栽培実験をしてみたところ、1 m2あたりおよそ 500g の乾燥重量の植物体が得られてもセシウム-137の量は 1000 ∼ 3000 ベクレル/kg 程度でした [2]。EDTA, DTPAなどの土壌改良剤を足しても蓄積量はあまり変わらず、セシウムの蓄積量はヒマワリ (H. annuus) よりもカラシナ (Brassica juncea) のほうが良いという結果でした。根部には地上部の3∼4倍の放射性物質が蓄積します。

ヒマワリの吸収量を考える

ヒマワリの収量は、うまくいっても 10アールあたり 150-200 kg と見積もられます。これは 1 m2あたり 1-2 kg です。この収量は種の重さですが、根の重さを種と同等と考えてよいと思います。(ヒマワリを育てた人はわかりますが、根は浅く密に張られます。)

セシウムを例えば1 m2あたり数千ベクレルずつ吸収できても、土壌の汚染を取り除くには何十年もかかります。(現在、飯館村等で発表されるベクレル数は乾燥土壌 kg あたりである点に注意してください。)また、ヒマワリの地上部にも低濃度のセシウムが蓄積された場合、ヒマワリ 1kg で乾燥土壌 1kg 相当量を回収する程度になってしまいます。これでは最初から表土を取り除く処理をするほうが現実的でしょう。

チェルノブイリ事故周辺で汚染土壌を回復させるためにヒマワリを使っている例もありません。ただし、この事実はヒマワリが役に立たないと証明されたわけではありません。

回収量はセシウムの状態に依存

土壌および土壌におけるセシウムの状態は大変重要です。上述(1999年)のレポートでは、酸化ウランの核を持つ燃料(fuel)が放射性セシウムと結合したものおよび、セシウムを核にしたアエロゾルが、ローム状の土壌(砂・シルト・粘土を多く含む)の表層5cmにたまった条件で栽培をおこなっています。またチェルノブイリ原発事故が起きた1986年から10年後の1996年に実験をおこなっているのでセシウムの多くが土壌中のミネラル類と強固に結合していると考えられます[3]。ロシア語の論文では、セシウム降下後の約2年間にファイトエクストラクションをおこなうことが重要としています。また、土を耕してセシウムを拡散させると植物体での蓄積量は減ると記されています。 もしヒマワリを使って回収したいのであれば以下の点に気をつけることが重要です。

  • 土壌をあまり深く耕さないでヒマワリを植える
  • セシウム吸収を促すためにカリウムを肥料として与えない
  • 育ったヒマワリをいい加減に廃棄しない (きちんと集めて、産業廃棄物処理業者に依頼するなど適切な手法で廃棄することが必要。除染目的で育てたヒマワリを堆肥にしたり、可燃ゴミとしてだすのは論外です。)
  1. Dushenkov S, Mikheev A, Prokhnevsky A, Ruchko M, Sorochinsky B 1999 "Phytoremediation of Radiocesium-Contaminated Soil in the Vicinity of Chernobyl, Ukraine" Environ Sci Technol 33:469-475
  2. チェルノブイリより10km離れた汚染土壌における実験: pHKCl 5.5, 有機物含量 2.5%, 電気伝導性 0.20 dS m-1。土壌の栄養度: 窒素 (N) 96 kg ha-1, リン酸 (P2O5) 30 kg ha-1, カリウム 28 kg ha-1,Mn 29.1 mgkg-1, Cu 1.4 mgkg-1, Zn 3.3 mgkg-1。表土15cmに追加した成分: 石灰岩 (5000 kg ha-1), 窒化アンモニウム (100 kg ha-1), 重過リン酸石灰 (288 kg ha-1), 塩化カリウム (190 kg ha-1), 硫化アンモニウム (190 kg ha-1)。カラシ菜の場合12.5cm間隔で植え6週間後に収穫する作業を3回繰り返して値を計測。表土のセシウム汚染度(ベクレル)は記載なし。
  3. 日本土壌肥料学会によるセシウムの作物(特に水稲)系での動きに関する基礎的知見も参考にしてください。

リゾフィルトレーション

セシウム Cs の場合

用いられる植物
根を密に張り吸収した金属を地上部に送らないので、水中の重金属回収に向いています。

Phytotech社(現在はEdenspace社)がオハイオ州Ashtabulaでおこなった実験では 70-1200 μg/l (平均 300 μg/l) のウランを含む水で、成長したヒマワリを2週間水耕栽培し、1500 リットルをウラン 20 μg/l 以下の濃度に下げられました。 またキエフ(ウクライナ)にあるInstitute of Cell Biology and Genetic Engineeringでは 80 Bq/l のセシウム-137, 1250 Bq/l のストロンチウム-90を含む水で、成長したひまわりを2日 × 6 回栽培し、50 リットルの水からセシウムの90%, ストロンチウムの 80%を除去できています。

ヒマワリはリゾフィルトレーションに適しており、4週目のヒマワリを 750 ml の実験容器で栽培したところ 200 μg/l のセシウムを25時間で 3 μg/l 以下、200 μg/l のウランは 48 時間で 10 μg/l 以下まで吸収したという報告があります[1]

上記の実験はおおよそ 1リットル あたりヒマワリ 1本という大変密度の高い状況でおこなわれています。実際に汚染水を貯蔵した池などで実験をする際には、ポンプ等で汚染水をまんべんなく循環させ、ヒマワリの根に触れさせる必要が生じます。この条件さえ満たせれば、逆に、大変効率よくセシウムを吸収できると考えられます。浅い水田の場合、風である程度水が循環するでしょうから、片隅にカラシ菜やヒマワリを 水耕栽培状態で植えておくと効果があるかもしれません。(これの確認には実験が必要。)

参考文献
  1. Dushenkov S, Vasudev D, Kapulnik Y, Gleba D, Fleisher D, Ting KC, Ensley B 1997 "Removal of Uranium from Water Using Terrestrial Plants" Environ Sci Technol 31:3468-74
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